最新記事

アメリカ政治

アラバマ州上院補選、負けてホッとした共和党

2017年12月14日(木)13時14分
安井明彦(みずほ総合研究所欧米調査部長)

ムーア候補が勝利していた場合、共和党の議員たちは、セクハラ疑惑のある同僚を守らなければならなくなるところだった。中間選挙への影響を考えても、とても望ましい展開とは言い難い。

第二に、ムーア候補が当選したとしても、共和党にとって頼りになる「一票」とは限らなかった。ムーア候補は、共和党指導部の反対を押し切って、補選の候補になった人物である。ことある毎に共和党指導部への批判を繰り返しており、たとえ上院議員になったとしても、大人しく指導部の方針に従うとは考え難かった。なにしろ、上院における共和党のトップであるミッチ・マコネル院内総務は、ムーア候補を選挙戦から撤退させるよう働きかけてきた経緯がある。衝突は必至だっただろう。

怖かった「ミニ・トランプ」の乱立

中間選挙に向けても、共和党には安堵すべき要素がある。「トランプ的」な候補が敗北したことで、問題含みの人物が共和党の候補になる機運が薄れたことだ。

ムーア候補は、いわばミニ・トランプである。主流派への反抗だけでなく、移民に対する強硬な発言やセクハラ疑惑を抱えたキャラクター等、トランプ大統領を彷彿とさせる側面には事欠かない。

共和党が恐れるのは、ムーア候補のようなミニ・トランプが、中間選挙に多く出馬することだ。ミニ・トランプには、一部の有権者から熱狂的な支持を得られる可能性がある一方で、ムーア候補のように問題含みの人物であるリスクも高い。まさに今回のアラバマ州のように、ミニ・トランプが共和党の候補に選ばれた選挙区では、勝てる筈の州で民主党に競り負けかねなかった。

とりわけ危険視されていたのが、補選でムーア氏を支援したスティーブ・バノン前首席戦略官の存在である。トランプ大統領の当選を支えたバノン氏は、ホワイトハウスを離れた後も共和党の主流派を批判し続けている。そのうえで、トランプ大統領が選挙戦で唱えた「米国第一主義」に基づく改革を推し進めるために、今回の補選にとどまらず、中間選挙でも非主流派の人物を共和党の候補に送り込む意欲を示してきた。

ムーア候補が勝利していれば、バノン氏の影響力は強まっていたに違いない。当初はムーア候補と距離を置いていたトランプ大統領も、選挙戦の終盤では明確にムーア候補支持を打ち出していた。トランプ大統領とバノン氏の共闘が勢いを増す展開になっていたとすれば、各地にミニ・トランプが乱立する悪夢が現実に近づきかねなかった。

問われる民主党との距離感

今後の議会運営にも、一筋の光明を見出す向きはある。これで共和党には、晴れて民主党に協力を呼びかける口実ができたからだ。これまでの議席数でも、共和党が単独で法案を成立させるのは難しかった。しかし共和党には、昨年の選挙で大統領と議会の多数党を獲得した実績がある。支持者の期待度は高く、そう簡単に民主党に歩み寄るわけにはいかなかった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国尹大統領に逮捕状発付、現職初 支持者らが裁判所

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 8
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 9
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 10
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中