習近平、「南京事件」国家哀悼日に出席――演説なしに関する解釈
それは「南京事件」が起きたとき、毛沢東は遥か遠い陝西省の延安にいて、むしろ政敵である蒋介石率いる国民党軍に日本軍が打撃を与えたことを喜んだくらいだ。その詳細は拙著『毛沢東 日本軍と共謀した男』に詳述した。これまで何度も書いてきたので、拙著の中の引用は控える。一部は2015年10月13日付のYahooコラム<毛沢東は「南京大虐殺」を避けてきた>に書いたので、興味のある方は、そちらをご覧いただきたい。
筆者とまったく関係のないアメリカの中文メディアの一つである「阿波羅楽網(aboluowang)」は「中共はなぜ30数年間も南京大虐殺を提起しなかったのか?」という見出しで、以下のようなことが書いてある。
――中共は建国してから30年以来、ずっと南京大虐殺のことを提起してこなかった。80年代になって中共メディアはようやく、いやいやのように少しずつ触れ始めた。中共のこの奇怪なやり方に関して、「中共は歴史の真相を覆い隠したいからだ。中共が抗日戦争を戦い勝利に導いたのだという嘘を作り上げたいからなのである。もし学生たちに"南京大虐殺"の真相を明らかにすれば、どうしても抗日戦争における国民党軍の抵抗と犠牲を避けて通るわけにはいかなくなるからである」と分析した者もいる。1979年以前の中国大陸の教科書には「南京大虐殺」に関する記述は一切ない。長いこと「南京大虐殺」は「禁区(禁止区域)」のようにさえなっていたのである。
カナダも「南京事件」を国家記念日に
誰が見ても客観的な事実を中国政府は覆い隠し、特に習近平政権は12月13日を国家哀悼日にするだけでなく、ユネスコの世界記憶遺産として強引に登録した。
加えて、全世界に散らばる6000万人からの華人華僑を使って、定住国における議員を動かし、さまざまなレベルの議会で、慰安婦像を設置させたり、12月13日を「南京大虐殺記念日」とすることを決議させるために運動を展開させている。
中国政府の通信社である新華社や中国共産党の機関紙「人民日報」の姉妹版「環球時報」は、たとえばカナダのオンタリオ州の州議会だけでなく、マニトバ州でも州議会議員が12月13日を「南京大虐殺」の国家記念日にする動きが出ていると報道している。
このように習近平の対日強硬策は変わっていない。むしろ慰安婦問題や南京問題で日本を心理的に追い込み、中国にひれ伏せさせて、習近平政権が唱える「一帯一路」構想に加入させようと、戦略を練っていると考えるべきだ。日本は、根拠のない、甘い期待の報道は控えるべきではないだろうか。習近平が虎視眈々と狙っている戦略が見えなくなってしまうことを危惧する。
(なお、菅官房長官は3日の記者会見で、中国側の意図について聞かれ「コメントを控えたい」と答えている。実に賢明な回答であった)
追記:2015年ですが、中央からは全国人民代表大会常務委員会副委員長の李建国(政治局委員)が出席していました。小さくしか扱われていなかったため見落としました。大変失礼いたしました。修正してお詫びします。ただ、80周年記念といえども、このレベルが連続した後に国家主席が演説するのは習近平の格下げになり、前政治局常務委員あたりが演説するのが妥当と思われます。
[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』(飛鳥新社)『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版も)『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。