最新記事

北朝鮮情勢

国連事務次長訪朝の背後に中国か?

2017年12月6日(水)15時45分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

まるで、その返礼のように、同年11月28日、今度はグテーレス氏が訪中し、習近平国家主席と会見し、人民大会堂で次期国連事務総長就任を祝いあった。中国はグテーレス氏が国連事務総長に選任されるべく、水面下で努力し続けてきた。従って、「祝いあった」のである。グテーレス氏は明確に「私が国連事務総長に選任されるに当たり、中国が貴重な支援(宝貴支持)をしてくれたことを感謝する」と口に出してしまっているほどだ。

グテーレス氏は同日午後、同じく人民大会堂で李克強首相とも会見し、へつらわんばかりの笑顔を見せている。

国連事務総長になった後も

グレーテス氏は2017年1月1日に正式に国連事務総長に就任したが、今年5月14日から15日にかけて北京で開催された「一帯一路国際協力サミット・フォーラム」に出席し、習近平や李克強らと人民大会堂で会見している。

一方、2017年9月18日、中国の王毅外相は国連本部でグテーレス国連事務総長と会見し、北朝鮮問題に関しても意見交換をした。

9月25日、グテーレス事務総長は、中国の国連代表の交代に当たり、「中国が国連や国際社会において非常に重要な貢献をしている」と中国を礼賛した。新華社が報じた。このときグレーテス事務総長は「国連は今後も中国との協力関係をさらに強化し、世界平和と発展を維持していこう」と述べている。

グレーテス国連事務総長は完全に中国に取り込まれている

以上から、すでに明白になったと思われるが、(客観的立場でなければならないはずの)国連の事務総長ともあろうものが、実は中国に完全に取り込まれているのである。フェルトマン事務次長が、どれほど事務総長の意向を受けて北朝鮮と話をするかに関しては、断定的なことは言えないが、一定程度は事務総長の意向を反映するのではないだろうか。

となれば、中露が言うところの「双暫停」すなわち、暫くは凍結でもいいので北朝鮮にともかく核・ミサイルの開発を暫時停止させて、その代わりに米韓に合同軍事演習を暫時停止させるという案を持ち出すことになろう。

少なくとも、日米の「圧力と制裁」の線に沿って北朝鮮の完全な核・ミサイルの廃棄を要求したところで、北朝鮮が絶対に受け入れないことは分かっているので、中露の中間的で暫定的な妥協線を提示するしかないだろう。そうでなければ「仲介」にはならない。

北朝鮮も中国の言うことなら聞かないが、国連事務総長の意向を受けた事務次長の言うことなら耳を傾けるということなのかもしれない。ただ、最大規模の米韓合同軍事演習が現在進行形で行なわれている現状にあって、交渉が困難を極めることは確かだろう。逆に北朝鮮から、国連に対して要求を突き付けてくる可能性も否めない。


endo-progile.jpg[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』(飛鳥新社)『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版も)『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

この筆者の記事一覧はこちら≫

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

独新財務相、財政規律改革は「緩やかで的絞ったものに

ワールド

米共和党の州知事、州投資機関に中国資産の早期売却命

ビジネス

米、ロシアのガスプロムバンクに新たな制裁 サハリン

ビジネス

ECB総裁、欧州経済統合「緊急性高まる」 早期行動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 6
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 9
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中