日銀の黒田総裁、金融緩和限界論に言及 さらなる利下げけん制の見方も
11月16日、日銀の黒田東彦総裁が、利下げによる金融緩和が金融機関の収益悪化を通じてかえって金融引き締め効果をもたらすとの議論に言及し、市場関係者の注目を集めている。写真はチューリヒで13日撮影(2017年 ロイター/Arnd Wiegmann)
日銀の黒田東彦総裁が、利下げによる金融緩和が金融機関の収益悪化を通じてかえって金融引き締め効果をもたらすとの議論に言及し、市場関係者の注目を集めている。さらなる追加緩和の効果は限定的として市場をけん制することが狙いとの見方が多いが、将来的な超低金利の調整を見据えた地ならしとの思惑も出ている。
過度の金利低下、金融仲介機能に悪影響
黒田総裁が発言したのは13日にスイス・チューリヒ大学で行った講演。過度の金利低下が「預貸金利ざやの縮小を通じて銀行部門の自己資本制約がタイト化し、金融仲介機能が阻害され、かえって金融緩和の効果が反転する可能性」があるとする「『リバーサル・レート』の議論が注目を集めている」と指摘した。
リバーサル・レートとは米プリンストン大学のブルネルマイアー教授が考案した概念で、金利がある一定水準を下回ると、かえって貸し出しなど金融仲介機能に悪影響を与えるとの議論だ。
同教授が今年4月に公表した論文によると、緩和効果をもたらす下限であるリバーサル・レートは国や経済状況で異なるが、金融緩和の度合いで徐々に切り上がる可能性があるとともに、量的緩和を行っている国では銀行の収益が悪化するため、リバーサル・レートも高めになる、などと指摘している。日米欧が繰り広げてきた大規模量的緩和を「長期化は百害あって一利なし」とする内容で、欧州中央銀行(ECB)が、物価目標に達しない段階で緩和縮小に転じた判断に影響を与えたとされる。
金利の下げ過ぎはむしろ引き締めとし、金融緩和の限界を示した点でインパクトがある。米国などでは、金融緩和の効果が限定的との結論ならば、経済刺激策は公共投資しかない、との議論も一部で見られているようだ。
日銀は昨年9月に大規模金融緩和の主要な目安を従来の「量」から「金利」に切り変え、短期金利をマイナス0.1%、長期金利(10年物国債利回り)をゼロ%程度に誘導するイールドカーブ・コントロール(YCC)政策を採用した。
経済を加速も減速もさせない中立金利を年限別にならべた「均衡イールドカーブ」という概念を示し、イールドカーブを均衡イールドカーブよりも下に抑制することによって経済・物価の改善局面では緩和効果が一段と強まるとの説明だ。
同時に、マイナス金利政策の導入によって一時、長期金利もマイナス圏に沈むなどイールドカーブのフラット化が過度に進行したとの判断のもと、金融仲介機能への影響にも配慮して現行の長短金利操作目標を設定。リバーサル・レートの要素を実践に反映した枠組みといえる。