日銀の黒田総裁、金融緩和限界論に言及 さらなる利下げけん制の見方も
物価目標達成前の金利調整に柔軟姿勢の見方
それでも黒田総裁があえてリバーサル・レートに言及した背景について、日銀では政策的な含意を否定するが、7月に就任した片岡剛士審議委員はさらなる利下げによる追加緩和を事実上提案しており、執行部として追加緩和観測が市場に織り込まれるのを防ぎたいとの意図も垣間見える。
黒田総裁は講演で「現時点で金融仲介機能は阻害されていない」と強調したが、「低金利環境が金融機関の経営体力に及ぼす影響は累積的」とも指摘した。全国地方銀行協会の佐久間英利会長(千葉銀行頭取)は15日の会見で「現在の超緩和的な金融環境は当分続く」との認識を示し、「現在の極めて緩和的な環境が続けば地域金融機関の基礎体力は徐々に奪われていき、地域における金融仲介機能の維持に深刻な影響が生じる」と懸念を表明。時間の経過とともに、超低金利の副作用が強まることは間違いない。
さらに、足元の日本経済は需給ギャップがプラスに転じ、7四半期連続でプラス成長が続くなど好調だ。消費者物価(除く生鮮食品、コアCPI)も日銀が目標に掲げる2%には依然として遠いものの、ゼロ%台でプラス幅を着実に改善させている。日銀が念頭に置く均衡イールドカーブが徐々に上方にシフトしている可能性も否定できない。
総裁発言について三菱UFJモルガン・スタンレー証券のシニア・マーケットエコノミスト、六車治美氏は、物価目標に距離がある中で長短金利目標の引き上げは難しいとしながらも、来年の現執行部の任期前に「物価目標の達成前でも、状況によってはイールドカーブ形状の調整はあり得る」との考えを「もう少し明確にすることはあるかもしれない」と述べるとともに、長期金利目標「ゼロ%程度」の暗黙の上限が「切り上がったり、年限毎の国債買入れの調整につながる可能性」を指摘した。
黒田総裁は10月31日の定例会見で「(物価を巡る欧米との)ファンダメンタルズの違いから、日本の長期金利を上昇させる必要はない」と断言する一方、「物価動向が改善するなかで金利をどうするかは、考慮に値する」と述べ、物価上昇ペース次第ではイールドカーブの修正議論が俎上(そじょう)に上る可能性を示唆している。
(竹本能文 伊藤純夫 編集:石田仁志)
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