最新記事

中国共産党

ラッパー「ピッシー」、中国共産党の顔に 音楽で若年層取り込み

2017年9月29日(金)13時37分

9月25日、野球帽にブカブカの黄色いTシャツ姿の李毅杰さん(写真)は、「ピッシー」の愛称で知られる中国では有名なラッパーだが、同国を支配するお堅い共産党の顔としては似つかわしくないルックスだ。北京で8月撮影(2017年 ロイター/Jason Lee)

野球帽にブカブカの黄色いTシャツ姿の李毅杰さん(23)は、「ピッシー」の愛称で知られる中国では有名なラッパーだが、同国を支配するお堅い共産党の顔としては似つかわしくないルックスだ。

李さんのラップグループ「天府事変」は、習近平国家主席が掲げる世界における中国の国家主義的ビジョンとも重なる「紅色力量(Force of Red)」や「這就是中国(This is China)」といった楽曲を発表し、ファンや共産党青年団からの支持を得ている。

来月開催される共産党大会で2期目の新たな5年間を迎える習主席のもとで、保守的な同党も、社会における自らの役割に新しい活力を与えようとしている。国が裕福になり、人の移動も増え、デジタル化が進むにつれ、従来の権力が試されている。

高学歴なミレニアル世代の多くが、厳しい雇用市場や大都市圏における住宅費の高騰に直面し、自身のキャリアや将来に希望を見いだせずにいるなかで、共産党も自身の現代化に取り組んでいる。

こうした努力の一環として、共産党はラップグループ「天府事変」のような自国のポップカルチャーも取り入れるようになった。だがその一方で、狭まりつつある許容範囲を逸脱したインターネット上のコンテンツやエンターテインメントに対する取り締まりを強化している。

もし党が「古いやり方に固執するなら、若者から拒絶されるだけだ」と李さんは言う。グループ名の「天府」は、出身地である四川省の州都・成都の辺りを指している。

「若者がもっと愛国心を抱けないのはなぜか、と声を上げる必要がある」と、李さんは北京で行われたインタビューで語った。

「われわれはこうしたシステムに入らなければならない」と李さん。「1990年以降に生まれた世代がシステムに入っていかなければ、国はどうなってしまうのか」

中国政府も同じ考えだ。

同政府は、ほかにも男性アイドルグループ「TFBOYS(ティー・エフ・ボーイズ)」のようなバンドを活用している。10代のメンバー3人はそれぞれ、中国版ツイッター「新浪微博(ウェイボー)」で3000万人近くフォロワーがおり、党のメッセージを拡散させるのに役立っている。同グループは党青年団のイベントにもよく出演している。

「このようなプロパガンダは、聴衆のニーズに合っているという点で一歩前進している」と、北京外国語大学で副教授を務めた経験のあるメディア研究者の乔木氏は指摘。

「一般市民は今では、(共産党機関紙の)人民日報や(国営の)中国中央テレビ(CCTV)による古めかしい、説教じみたやり方を拒絶している」と同氏は説明する。

1990年代以降生まれの世代に人気の「ビリビリ動画」のアカウントでは、共産党の青年団が今年に入り、愛国的なラップミュージックの合間に国防省ブリーフィングのような従来のコンテンツを挟み込んだ動画を数多く投稿している。

また、イメージやサウンド、キャッチーな音楽が繰り返されるテンポの良いある動画では、当局に対するスパイと疑われる人物に注意し、通報するよう市民に求めている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米プリンストン大への政府助成金停止、反ユダヤ主義調

ワールド

イスラエルがガザ軍事作戦を大幅に拡大、広範囲制圧へ

ワールド

中国軍、東シナ海で実弾射撃訓練 台湾周辺の演習エス

ワールド

今年のドイツ成長率予想0.2%に下方修正、回復は緩
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 10
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中