ラッパー「ピッシー」、中国共産党の顔に 音楽で若年層取り込み
紅色力量
ラップグループ「天府事変」は2016年、時にののしるような言葉に満ちた歌に、愛国的な価値を込めることで、スターの座に上り詰めた。「紅色力量」という曲は、中国が自国の一部とみなす台湾の蔡英文総統を攻撃している。
「中国は1つだけ。香港や台北は同志だ」と同曲の歌詞にある。また、「遠く離れ、振る舞い方を忘れてしまった。犬でも感謝のあまり吠えながら、家に帰ることを知っている」と、蔡政権をののしっている。
同曲のビデオはネット上で拡散し、ウェイボーのグループアカウントでは視聴回数が700万回を超え、党員9000万人強を数える共産党のエリートを育成する青年団の目に留まった。
天府事変が次に発表した曲「這就是中国」は、青年団が支援する音楽スタジオが制作をサポートした。これ以外、金銭的支援は一切受けていないと、同グループは言う。
南シナ海の領有権を巡り、国際的な仲裁裁判所が中国の主張を退ける判断を下したことを非難して、中国が昨年9月、実効支配する永興島に同グループを送り込み、音楽ビデオを撮影させて以来、両者の関係は深まった。
天府事変は現在、政府の宣伝関連機関に広くつながりをもっていると、李さんは説明する。アイデアを交換するため当局者からよく食事に招待され、そのお返しに、より健全な内容を求める政府の活動に沿うよう、行動を改めているという。
彼らが作る曲は臆面もなく中国を支持する一方、汚染された食品や汚職、環境汚染といった現代中国の抱える問題にも触れている。
「自分たちの曲に含まれた道理をわきまえた批判には意味があるが、やみくもに不満を言い続ける人たちは軽蔑する」と、李さんはロイターに語った。
だが、誰もが天府事変のファンというわけではない。
故毛沢東主席を称賛する同グループの曲は、混乱と暴力が渦巻いた文化革命(1966─1976年)を美化しているとして、ネットでは批判も見られる。一部の歴史家は、同革命で約150万人が命を落としたと推定する。
また、同グループを、政府から金をもらって愛国的なコメントをネット上に投稿する集団「五毛党(五毛は約55円)」と呼び、宣伝マシーンだとして一蹴する人たちもいる。