中国官制メディアの無断転載に抗議したら850円もらえました
なぜこんな転載上等の法律があるのだろうか。そこには、中国の新聞はほとんどが党組織の機関紙だという事情がある。すなわち中央政府、省庁、党組織から始まり、地方組織に至るまであらゆる組織が機関紙を持っているのだ。
中国には約2000紙の新聞があると言われているが、ほとんどは独自の取材能力を持っていない。社説&転載記事、そして広告によって埋め尽くされている。中国共産党としても、お上の指令を末端に伝えるには転載はむしろありがたい。というわけで転載に関する法制度ががっつりと用意されているというわけだ。
となると、経費をかけて真面目な独自記事を書くのがバカらしい話になってしまうが、一応の救済策は用意されている。「転載不可」とサイトに明記しておけば転載してはいけないことになっている。
実はニューズウィーク日本語ウェブサイトにも「Newsweekjapan.jpに掲載の記事・写真・イラスト等すべてのコンテンツの無断複写・転載を禁じます」と書いてあるのだが、この点について環球時報はどう考えているのだろうか。
明らかな違法行為ではないか、原稿料上げて!と勢い込んでこの点を指摘すると、「そうですか? もし転載されるのが嫌ながらその旨を伝えていただければ今後は転載いたしません」と軽くあしらわれて終わってしまった。
まあ、中国でも完全な転載がダメとなると、「某誌は次のように報じている。すなわち***」といったスタイルでほとんど転載と変わらないような記事が載ることもしばしばなので、あんまりつっこんでも仕方がないのかもしれない。
というわけで、編集部の指令によって始まった私の原稿料回収の旅は、50元(約850円)という微妙なお金で決着してしまった。ちなみに、原稿料の支払いは中国が世界に誇るモバイル決済によって送金されたことも申し添えておく。交渉していたチャットでそのままお金も送れる。話がついた10秒後には着金。早い。簡単便利高速楽ちんである。
そうはいっても、モバイル決済で原稿料が支払われるのは中国でも異例だ。普通に手続きをすると、何枚も書類を書いて、源泉徴収をして...等々の七面倒臭いやりとりが待っている。そもそも、Wさんのモバイル決済ウォレットから支払われているわけで、環球時報社の経理が処理できるのかは謎だ。「面倒くさいからポケットマネーで50元支払ってクレーマーを追い返した」という対応だった可能性もゼロではない。
それはさておき――。中国の著作権や転載絡みの法律について勉強になったのはありがたいのだが、やはり850円しかもらえなかったのは寂しいかぎり。しかも元の掲載媒体であるニューズウィーク日本語版には1円もお金が落ちていない。Mさんの私への風当たりも厳しくなるばかりだ(編注:決してそんなことはありません笑)。
ここはひとつ、どこかの中国メディアがこの「環球時報から原稿料をもらってみた」という記事の翻訳権を高値で買って、「中国の著作権遵法意識ここにあり!」と見せつけてくれるとステキなのだが......。ご連絡をお待ちしている。
[筆者]
高口康太
ジャーナリスト、翻訳家。1976年生まれ。千葉大学人文社会科学研究科(博士課程)単位取得退学。独自の切り口から中国・新興国を論じるニュースサイト「KINBRICKS NOW」を運営。著書に『なぜ、習近平は激怒したのか――人気漫画家が亡命した理由』(祥伝社)、『現代中国経営者列伝 』(星海社新書)。
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