4選狙う独メルケル首相 難民巡る「どん底」からの復活劇
メルケル首相の難民受け入れ決定から1年、ドイツ国内ではイスラム系武装勢力による小規模な攻撃が相次ぎ、首相の支持率は30ポイント急降下して45%に達し、4選目の可能性も疑問視された。
だが現在、ドイツ国民の63%が、メルケル首相はよくやっていると評価しており、ベルテルスマン財団が今月行った調査によれば、59%がドイツは正しい道を進んでいると回答している。
「長く、困難な道だった」と首相側近は言う。「だが、選挙戦において、もはや難民問題がメルケル首相にとってマイナスにならないところまで、なんとかこぎつけた」
「他に選択肢はない」
海外で起きた出来事もメルケル首相に追い風となった。
たとえば昨年、英国が欧州(EU)連合からの離脱を決めた国民投票、そして米大統領選におけるドナルド・トランプ氏の勝利は、いずれも「安定の擁護者」としてのメルケル氏の魅力を高める結果となった。
2016年初頭にマケドニアがギリシャとの国境の閉鎖を決めたことで難民の流入は食い止められ、ドイツの苦境はは緩和された。また有権者の反移民感情の引き金になりかねない、イスラム系武装勢力による大規模なテロ攻撃もドイツでは発生しなかった。
だが同じく、決定的に重要だったのは、メルケル首相には、ドイツ人がどう行動するかを理解する才覚があったことだ。
メルケル氏が公衆の前に姿を現す場合、反移民を主張する人々に出迎えられることが多い。彼らは、口笛や「メルケルは去れ」などのシュプレヒコールによって、首相の演説をかき消そうとする。
スタインヒュードでは、1人の女性が、指でひし型を作るメルケル首相お得意のジェスチャーと、中央部に血まみれの弾痕のあるドイツ国旗を重ね合わせたプラカードを掲げていた。そこには「あなたに恐怖と死、混乱を与える」と書かれていた。
だが、数十名程度の抗議者は、メルケル首相のメッセージに拍手喝采で応える支持者に比べれば圧倒的に少数派だった。
「難民危機について、他に対応策があったかどうかは、自信がない。難民たちは、どこかの地に向かわなければならなかった」と近隣のフロートーで下水処理工場を営むウィリー・コルデスさん(70歳)は話す。「他の誰かなら、もっとうまく対応できたとは思えない」
選挙戦においてメルケル首相にとって好都合だったのは、ライバル候補のマルティン・シュルツ氏率いる中道左派の社会民主党(SPD)を含め、既成政党の多くが首相の国境開放政策を支持しているという事実だ。