最新記事

中国共産党

第19回党大会と新チャイナ・セブン予測(1)

2017年9月1日(金)16時00分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

最後の「中共中央政治局常務委員会委員7名」を筆者は「チャイナ・セブン」と名付けた。胡錦濤政権時代、この委員の数が「9人」だったので、それを「チャイナ・ナイン」と名付けたからである。筆者が苦労して思いついた「チャイナ・ナイン」や「チャイナ・セブン」を、すでに存在している報道用語のように使ってくれるのは嬉しいことだ。

読売新聞の新チャイナ・セブン「判明」報道に関して

さて、この新チャイナ・セブンに関して8月24日付の読売新聞が「中国次期指導部リスト判明、王岐山の名前なし」という見出しの報道をした(昨日まで見ることができたのに、なぜかこの記事が見えないようになっている)。

判明――?

このリストは党大会までは絶対に秘密で、もしこの情報を外部に漏洩(ろうえい)した者がいたとすれば、党機密情報漏洩罪などに問われるから、「判明」ということはあり得ないと、筆者はまず反射的に思った。

本気で「判明」と書いたとすれば、よほど中国共産党の内部事情を知らない記者が書いたか、死を覚悟の上で漏洩した者がいたかのどちらかだろうと考えるのが、中国共産党政治の基本ルールを知っている者の反応のはずだ。上述のように中共中央委員会の委員も中共中央政治局委員もその常務委員(チャイナ・セブン)も、みな党大会における一連の「選挙」で選ばれることになっているから、党大会開催前に「判明」すること自体、あり得ない。

そもそも読売新聞の報道では、「政治局委員」を「政治局員」と書くなど(7名の一覧表の左、真ん中)、きっと中国共産党の基本構造もご存じないにちがいないと思われる。中国では「委員」というのは特別の意味を持っており、「局員」は行政(国務院管轄側)の職員に用いる場合があるが、一般に使わない。非常に日本的な発想の政治専門用語である。ここに、信憑性を揺らがせる二つ目の原因がある。

おまけに、あの江沢民のために生きているような韓正を「習派」(習近平派)と書いてある。何ごとか、目を疑った。

すると間髪を入れず、アメリカやイギリスの多くの中文メディアや香港メディアなどが、一斉に同様の疑義を発信し、「信頼性がない」と断罪しているのを発見した。たとえば「韓正が習派だって?」という報道では、「それを見ただけで、これは真実性のない情報だということがすぐにわかる」と書いているし、また「王岐山の名前なし」に焦点を当てて、「ああ、これは江沢民派のヤツに嵌められたな」という批判もあり、なかなかに厳しい。

基本、数多くの「予測ヴァージョン」は早くから出ているが、それらはあくまでも「予測」と断り、非常に用心深く掘り下げて慎重に「予測」を報道しているので、世界の関係者は誰もが「判明」という言葉にひっかかってしまったのだろう。

もしかしたら、結果的に読売新聞が「判明した」とされるリスト通りになるかもしれない。その可能性は否定できない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

マスク氏、近く政権離脱か トランプ氏が側近に明かす

ビジネス

欧州のインフレ低下、米関税措置で妨げられず=仏中銀

ワールド

米NSC報道官、ウォルツ補佐官を擁護 公務でのGメ

ワールド

トランプ政権、輸入缶ビールに25%関税賦課 アルミ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台になった遺跡で、映画そっくりの「聖杯」が発掘される
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 7
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 8
    博士課程の奨学金受給者の約4割が留学生、問題は日…
  • 9
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 10
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 7
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 8
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 9
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 10
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中