最新記事

アフガニスタン

アフガン撤退から一転、増派へ トランプはなぜ変心したのか 

2017年8月22日(火)19時30分
ケリー・マグサメン(米国務省元国防次官補代理)

8月21日のテレビ演説でアフガニスタン新戦略を発表したトランプ Joshua Roberts-REUTERS

<アメリカのトランプ大統領がアフガニスタンの新戦略を発表し、アメリカの関与継続を表明した。アフガニスタンに無関心だったトランプの戦争とは?>

ドナルド・トランプ米大統領は21日、政権発足から8カ月で最も重大な決断をした。アフガニスタンへのアメリカの関与を継続し、米軍部隊を撤退させるのではなく増派し、「勝つために戦う」ことが、トランプの国家安全保障チームの選んだ答えだ。ただし増派の規模など、具体的な計画は明らかにしなかった。

アフガニスタン増派に反対してきたトランプがたとえ疑念を持っていようと、これは最終決定だ。目的は、アフガニスタン軍による治安の回復を支援し、反政府武装勢力タリバンに対する作戦を本格化し、テロ組織ISIS(自称イスラム国)が同国で足場を固めるのを阻止することだ。

【参考記事】アフガニスタンを脅かすISISの戦線拡大

オバマ政権のアフガニスタン政策を批判してきたトランプ政権は、この決定を、前政権とは明確に袂を分かつ新たな戦略だと主張するだろう。だが現実には、長年の中核戦略を、適度に修正しただけだ。

一方、今回の決定の重大さの割に、アメリカの国家安全保障問題に占めるアフガニスタンの存在感は失われたままだ。もはやアフガニスタンが、アメリカで話題を独占することなどない。アフガニスタン戦争が「良い戦争」と言われたのは過去の話で、今や忘れられた戦争だ。2016年の米大統領選挙でも、アフガニスタンは全く争点にならなかった。1度もテレビ討論の議題にならず、トランプも民主党候補だったヒラリー・クリントンも大した意見を言わなかった。

【参考記事】バノン抜きのトランプ政権はどこに向かう?

辛い戦争から目を背ける国民

だがアフガニスタンでは、これまでに2400人以上の米兵が死亡し、2万人以上が負傷した。2002年以降、アメリカはアフガニスタンの外交や治安維持を支援するために1000億ドル以上を注ぎ込んだ(この金額に、アフガニスタンで実際にかかった数千億ドルの戦費は含まれていない)。これだけの人命と国費を犠牲にしても、アメリカ人の大多数にとってアフガニスタン戦争は過去の話だ。9.11テロの報復として始まった、アメリカ史上最もトラウマとして残る戦争であるはずなのに、心理的に決別してしまった感じだ。

【参考記事】アフガニスタンは「オバマのベトナム」

多くのアメリカ人と同様に、筆者もアフガニスタンにおけるアメリカの使命について答えを探しあぐねている。はっきりした正解がなく、どの選択肢にも納得がいかない。前職(オバマ前政権下の米国務省国防次官補代理)では、政権末期に駐留米軍の兵力を維持するとしたバラク・オバマ前大統領の決定を強く支持した。規模を維持するリスクより規模の縮小によるリスクの方が大きいと思ったからだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

仏総合PMI、11月は44.8に低下 新規受注が大

ビジネス

印財閥アダニ、資金調達に支障も 会長起訴で投資家の

ワールド

ハンガリー首相、ネタニヤフ氏に訪問招請へ ICC逮

ビジネス

アングル:中国輸出企業、ドル保有拡大などでリスク軽
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 6
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 9
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中