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アフガニスタンは「オバマのベトナム」

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2009.04.24

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アフガニスタンは「オバマのベトナム」

戦闘に勝ちながら戦争に勝てない泥沼。「第二のベトナム」は手あかのついた言葉だが、アフガニスタン情勢には不気味な類似点があまりに多い

2009年4月24日(金)04時17分
ジョン・バリー、エバン・トーマス(ワシントン支局)

警告は時に現実のものになる。泥沼化して、犠牲者だけが増え続けた40年前のベトナム戦争。オバマが軍を増派し、イラク増派を成功させた米軍司令官のペトレアスが指揮を取っても、出口はすぐには見つかりそうにない。

 ジョージ・W・ブッシュ政権でアフガニスタン問題の顧問を務めていたダグラス・ルート米陸軍中将は1年ほど前、テレビの人気トーク番組でこんなことを言った。「われわれはアフガニスタンの戦場で、戦術的に敗れたことはない」

 ベトナム戦争の歴史を少しでも勉強していれば、この言葉に不気味な響きを感じ取るはずだ。あの戦争の意味を象徴する言葉に、これによく似たものがある。

 それは戦争が終わって数年後、米陸軍のハリー・サマーズ大佐と北ベトナムの軍大佐との間で行われたやりとりだ。「戦場で負けたことはなかった」とサマーズが言うと、相手は言った。「確かに。だとしても、それが何だと言うのか」。戦場で負けていなくても、アメリカは「戦争」に負けたではないか、というのである。

「第二のベトナム」「○○にとってのベトナム」。アメリカが他国に軍事介入すると、たいていベトナム戦争が引き合いに出される。軍事介入に反対する左派は「泥沼化」のおそれをすぐに口にする。

 手あかのついた言葉だが、この警告は時に現実のものになる。現にアフガニスタンでの戦争が「いつか来た道」のようにみえてきた。

 アフガニスタンとベトナムの戦いには、不気味な類似点が多い。タフなところを見せたい大統領が「勝利」のために手段を選ばないと言っていること。アメリカが救うはずの国は分裂していて、とても国家とは呼べないこと。無能で腐敗した政府が大半の国民から政府とは認められていないこと。敵は外国の侵略者と戦うことに慣れていて、国境を越えれば潜伏できる拠点があること。その拠点をアメリカが自由に攻撃するわけにいかないこと。そして、出口が簡単に見つかりそうにないこと。

 アフガニスタンとベトナムの間には、確かに大きな違いもある。たとえばタリバンには、南ベトナム解放民族戦線(NLF)のような力もまとまりもない。

 ベトナムはアメリカにとって直接の脅威にはならなかった。共産化の波が広がることを恐れた人々も、NLFの兵士が米本土に乗り込んでくるとは予想しなかった。だが、アフガニスタンは違う。タリバンが米本土に侵入したことはないにせよ、アフガニスタンで訓練を受けたテロリストが01年に世界貿易センタービルを破壊した。

 だからアフガニスタンの戦争は、正しく必要な戦争とみなされている。多くの人はそこがイラク戦争との違いだと考えている。

 イラク増派を成功させて米中央軍司令官に就任したデービッド・ペトレアスが、アフガニスタンでも奇跡を起こす可能性はあるかもしれない。ペトレアスはベトナムとアフガニスタンの比較を好まないという。アフガニスタンは複雑で理解できない国だ、だからベトナムと比較して語るしかないという言い訳に聞こえるらしい。

 それでも、類似点は確実にある。ベトナムと同じくアフガニスタンでも、アメリカはすべての「戦闘」に勝ちながら「戦争」に勝てないという状況に直面している。

 公式の報告に非公式の情報。アメリカと、アフガニスタンを含む外国の外交官や軍事関係者の話。そんなおびただしい情報のなかに、一つ共通した見方がある。アフガニスタンの情勢はひどく、さらに悪化しているという点だ。

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