米ロに新たな火種、トランプを攻めるプーチン「寝技」外交
軍拡競争は繰り返さない
トランプの存在は、歴代大統領の政策に改めて不審の目が向けられる原因にもなっている。アフガニスタンとイラクで泥沼に陥って以来、アメリカの外交政策は内向きになり始めた。バラク・オバマ前大統領は世界各地の争い事になるべく首を突っ込まないようにした。
トランプはその流れを引き継いだにすぎない。だが、オバマが現地諸国を支援するなどして、アメリカの撤退を目立たないようにしたのに対してトランプは、いつもの破壊的な方法で実行してきた。
ソ連時代はスパイだったプーチンの目には、こうしたアメリカの状況はチャンスと映っているに違いない。重大な対立をいくつも抱え、自信を失い、混乱している国は本質的に危険だ。そんななか「ロシア疑惑」は、反トランプ派の切り札になった。
気を付けなくてはいけないのは、窮地に陥ったアメリカの大統領は、武力行使によって国内の人気取りをしようとする場合があることだ。例えばビル・クリントン元大統領は、弾劾手続き中にイラクを爆撃した。
トランプも同じことをするかもしれない。既にシリア空爆で、支持率を一時的に急上昇させた経験がある。次のターゲットは北朝鮮かもしれない。そうなればロシアの東の玄関口で大戦争が起きる。プーチンは対米政策を決断するとき、こうしたこと全てを考慮する必要がある。
アメリカと対立する国々は、アメリカの政治が混乱している間に、国内問題に集中している。中国がまさにそうだ。ロシアもそうしたいところだが、ウクライナ問題、シリア問題、そしてもちろん「ロシア疑惑」のために、アメリカと距離を置くのは難しくなっている。
プーチンは今後も、アメリカに対して慎重な対応を迫られるだろう。ロシアとアメリカの間には、軍事面でも大きなギャップがある。だがプーチンは、冷戦時代の軍拡競争が、ソ連経済を駄目にしたことを知っている。今それを繰り返せば、ロシアもソ連と同じ運命をたどる。
同時にプーチンは、欧米企業に制裁を科してロシア経済を孤立させてしまうよりも、米政府主導のロシア孤立策のほうがましだと気が付いているはずだ。国内で排外主義的な風潮をあおっても、ロシアにとっていいことはほとんどなく、アメリカ以外の国との関係まで悪化し、経済が一段と悪化するだけだ。