最新記事

パレスチナ

サマーキャンプの子供たちに、聖地「解放」の戦闘を教え込むハマス

2017年8月3日(木)16時10分
ジャック・ムーア

ハマスは毎年実施しているサマーキャンプだと説明するが(写真は7月に実施された青年向けの訓練の様子) Ibraheem Abu Mustafa-REUTERS

<ハマスがサマーキャンプで子供たちに戦闘を模擬体験させる映像が公開された。ハマスは毎年やっているキャンプの一環というが、その内容は聖地をめぐる衝突に酷似している>

エルサレムの聖地の管理をめぐり、イスラエルとパレスチナの緊張が高まるなか、衝撃的な映像が公開された。イスラム原理主義組織ハマスが主催したサマーキャンプで、パレスチナ自治区ガザの子供たちがイスラエルの治安部隊との衝突を模擬体験する映像だ。

YouTubeのハマス系チャンネルに7月19日にアップされたこの映像では、エルサレム旧市街の聖地(ユダヤ教徒は「神殿の丘」、イスラム教徒は「高貴な聖域」と呼ぶ)に通じる門のレプリカを背景に、ハマスの戦闘員に扮した子供たちがイスラエルの警官に扮した子供たちと戦う。

ハマスのサマーキャンプの動画


この模擬戦闘は、サマーキャンプの「卒業式」として行われたと、地元イスラエルのメディアは報じている。映像は何人かの子供たちが門の前に集まる場面から始まる。彼らは聖地に礼拝に来たイスラム教徒という設定だ。

その1人が警官を刃物で刺し、別の警官に撃たれて倒れる。警官隊の激しい銃撃にさらされながら、イスラム教徒たちは「殉教者」を運び出す。そこにハマスの戦闘員に扮した子供たちが登場。門の前に設置された金属探知機を破壊し、「アラー・アクバル(神は偉大なり)」と叫びつつ、聖地を占拠する。

メディアはこの映像を聖地「解放」のための戦闘訓練と報じているが、ハマスの報道官は本誌のメール取材に対し、こうした見方を否定した。「そうではない。ガザで毎年やっているサマーキャンプと同じで、子供たちのストレスを吐き出させ、彼らを取り巻く現実、彼らの苦しみの原因、未来をどう築くかを教え、父祖の地への愛を育むためのものだ」

【参考記事】エルサレムでの衝突はどこまで広がるのか──パレスチナ・イスラエルで高まる緊張

ガザは07年以降、事実上イスラエルの経済封鎖の下に置かれている。イスラエル軍の3度にわたる侵攻でインフラは崩壊。雇用をはじめ経済的機会は失われ、復興のめども立たず、国連は20年までに「居住不可能」になると予測している。

ヨルダン川西岸のパレスチナ自治区を統治するパレスチナ解放機構(PLO)の幹部は、この映像は親イスラエル派が作った偽の映像の疑いがあると指摘。仮に本物だとしても、「意味がなく、(ハマスが)勝手にやっている」訓練だと切り捨てた。

欧米のメディアはこれまでにもハマスのサマーキャンプで子供たちが武器の扱いを教わったり、トンネル内で軍事訓練を行ったり、ユダヤ人入植地への襲撃を想定した訓練を行う映像を入手して報道してきた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ミャンマー地震の死者1000人超に、タイの崩壊ビル

ビジネス

中国・EUの通商トップが会談、公平な競争条件を協議

ワールド

焦点:大混乱に陥る米国の漁業、トランプ政権が割当量

ワールド

トランプ氏、相互関税巡り交渉用意 医薬品への関税も
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジェールからも追放される中国人
  • 3
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中国・河南省で見つかった「異常な」埋葬文化
  • 4
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 5
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 6
    なぜANAは、手荷物カウンターの待ち時間を最大50分か…
  • 7
    不屈のウクライナ、失ったクルスクの代わりにベルゴ…
  • 8
    アルコール依存症を克服して「人生がカラフルなこと…
  • 9
    最古の記録が大幅更新? アルファベットの起源に驚…
  • 10
    最悪失明...目の健康を脅かす「2型糖尿病」が若い世…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えない「よい炭水化物」とは?
  • 4
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 5
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 7
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 8
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 9
    大谷登場でざわつく報道陣...山本由伸の会見で大谷翔…
  • 10
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中