ウォール街を襲うAIリストラの嵐
それでもミネビッチは金融界のAI化は全体としてプラスになると言う。これまで長年ウォール街に優秀な人材が集中し過ぎていた。アメリカの名門ビジネススクール10校の卒業生の3人に1人が金融業界に入る。医療業界に就職するのはわずか5%。エネルギーと製造業に入る卒業生はさらに少ない。
金融業界に集中していた優秀な頭脳が別の分野で生かされたら、社会全体が恩恵を受けるだろう。特に慢性的な技術者不足に悩むIT業界にとって、金融業界の頭脳流出は渡りに船だ。金融業界からリストラされた人材がニューヨークに残るなら、「ニューヨークはシリコンバレーに匹敵するITの中心地になる」と、ミネビッチは言う。
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つぶしが利く点が有利
若き数学の天才たちが金融工学のプロとして不要になれば、温暖化対策や医療の分野でその頭脳を生かすだろう。サイバーセキュリティーの分野でも活躍できそうだ。国家安全保障局(NSA)のウェブサイトには国家機密をサイバー攻撃から守る「数学者を積極的に探している」との告示がある。
NSAが数学者に払う給与は年間10万ドル前後。ヘッジファンド時代に比べたら、生活はぐっと質素にならざるを得ない。だが、少なくともトレーダーや金融工学のプロには転職先がある。その点ではAIに職を奪われる多くの労働者よりも恵まれている。
AIのファンド運用にはもう1つメリットがある。既にAI化を終えたヘッジファンド、アイデア社の主任科学者ベン・ゲーツェルは「私たちが全員死んでも、AIは取引を続ける」と言っている。たとえ核戦争が起きても、生き残った人たちは年金ファンドの高利回りを享受できるというわけだ。
<本誌2017年7月18日号「特集:日本人が知らないAI最前線」掲載記事>
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