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外国人が心底失望する「日本のホテル事情」

2017年7月31日(月)12時00分
デービッド・アトキンソン(小西美術工藝社社長)※東洋経済オンラインより転載

それを踏まえて、日本を見てみましょう。先ほども申し上げたように、日本の国際観光収入はベスト10入りが目前に控えるようなポジションまで上がってきていますが、「1人当たり国際観光収入」で見ると世界で第46位という低水準に甘んじています。

都市別に見ると、東京にある5つ星ホテルは18軒で、世界21位です。興味深いことに、東京は観光都市ランキングでは世界17位です。

このように見てくると、日本には2400万人もの外国人観光客がやってきているものの、彼らからそれほどおカネを落としてもらっていないという問題が浮かび上がるのです。

ここで誤解をしていただきたくないのは、「ボッタクリ」のようになんでもかんでも高くして、外国人観光客からもっとおカネを搾り取れなどと言っているわけではないということです。

あまりおカネを使いたくないという観光客でもそれなりに楽しめるようにするのと同じように、おカネを使うことに抵抗がない観光客たちに、気兼ねなく「散財」してもらうような環境を整備すべきだと申し上げているのです。

その象徴がまさに「5つ星ホテル」なのです。せっかくおカネを使うことに抵抗がない人がやってきても、安いホテルしかなければ、そこに泊まるしかありません。それどころか、「ホテルのグレードが合わないから別の国に行こう」と考える人がいるのは、先ほどご紹介したとおりです。

このような「稼ぎ損ない」を極力抑えていくことが、これからの日本の観光では極めて重要なテーマとなってくるでしょう。

「庶民向け」だけでは伸び代が小さい

「観光大国」と呼ばれる国の特徴に、さまざまな収入、さまざまな志向の観光客を迎え入れる環境が整っているということが挙げられます。

バックパックを背負って「貧乏旅行」をする若者やショッピングと食事目当てでやってくる近隣諸国のツアー客だけでなく、自家用ジェットでやってくる世界の富豪まで、さまざまなタイプの客が楽しめる「多様性」がカギなのです。

しかし、残念ながら今の日本の観光には「多様性」がありません。これは「観光」というものが、「産業」ではなく「庶民のレジャー」だった時代が長かったことの「代償」です。

いわゆる「1億総中流」のなかで誰もが楽しめ、誰もが泊まれることが最も重要視されたので、あらゆるサービスが低価格帯に固定化されてしまったのです。

人口が右肩上がりで増えていく時代に自国民が楽しむレジャーという位置づけならば、それも良かったかもしれません。しかし、人口が減少していくなかで、外国人観光客も対象とした「産業」として発展させていく場合、このような画一的な価値観は大きな足かせになることは言うまでもありません。

日本が「観光大国」になるには、このような「昭和の観光業」の考え方を捨て、観光には「多様性」が必要だという事実を受け入れることがどうしても必要です。

そのような意味では、「5つ星ホテル」を増やすことは、日本が早急に手をつけなくてはいけない改革のひとつなのです。


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※当記事は「東洋経済オンライン」からの転載記事です。
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