最新記事

中東

カタール危機でアジアが巻き添えに

2017年7月22日(土)17時00分
ジョゼフ・ハモンド(ジャーナリスト)

カタールが輸出するLNGの約3分の1はアジア向け Tuck-UllStein Bild/GETTY IMAGES

<問題は天然ガス供給だけではない。ヘリウム供給停止から外国人労働者まで、新たな中東危機が大きな波紋を引き起こしている>

アラビア半島東部の小国カタールをめぐる危機は、アジア全体にまで影響を及ぼしつつある。地域内の株式市場の動きが示すように、カタールと利害関係を持つアジア企業が受ける打撃は大きい。

影響の全体像は見え始めたばかりだ。今後はカタールの主要輸出品である天然ガスの供給だけでなく、ヘリウム市場や外国人労働者の受け入れプログラムにも波紋が広がるだろう。

危機の始まりは6月上旬、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、エジプト、バーレーンがカタールとの国交断絶を発表したことだ。その後、さらに6カ国が断交を発表し、ヨルダンなどは外交関係の格下げを決定。通商関係も停止され、経済封鎖の様相を呈している。

その動機は、カタールに圧力をかけて、パレスチナのイスラム原理主義組織ハマスやエジプトのムスリム同胞団への支援をやめさせることにある。カタール政府は長年、ムスリム同胞団のイスラム学者で、自爆攻撃を擁護するユスフ・カラダウィを保護している。

カタールはこうした組織との関係を認めつつ、地域紛争において仲介役を務めたいと考えてのことだと主張。危機のさなかでも強気の姿勢を貫いている。

対カタール断交措置には、今のところアジアで唯一、インド洋の島国モルディブが参加している。同国ではサウジアラビアやUAEの影響が拡大する一方、若年層イスラム教徒の過激化が政府の悩みの種になっている。テロ組織ISIS(自称イスラム国)への参加者数が、人口比で最も多いのはモルディブだ。

それ以外の多くのアジア諸国にとって、最も懸念されるのは天然ガスの問題だ。カタールは世界最大の液化天然ガス(LNG)輸出国。その約3分の2は日本や韓国、インド、台湾、中国、タイへ送られている。インドの場合、輸入する天然ガスの65%がカタール産だ。

【参考記事】断交1カ月、サウジはカタールの属国化を狙っている

資源供給の構図が変わる

LNGの供給契約は長期ベースで締結され、市場は地域性が高い。加えて、カタールが世界全体の供給量の3分の1を担う状況を考えれば、アジアの顧客企業がカタールに代わる供給元を探すのは難しいだろう。

危機が本格的な戦争に発展しなければ、カタールは今後もLNGの供給を続けられる可能性が高い。輸出ルートであるホルムズ海峡はイランの近海だが、今回の危機によって、サウジアラビアの宿敵であるイランとカタールの関係は強化されている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル、ガザ軍事作戦拡大 国連診療所などへの攻

ワールド

マスク氏、近く政権離脱か トランプ氏が側近に明かす

ビジネス

欧州のインフレ低下、米関税措置で妨げられず=仏中銀

ワールド

米NSC報道官、ウォルツ補佐官を擁護 公務でのGメ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台になった遺跡で、映画そっくりの「聖杯」が発掘される
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 7
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 8
    博士課程の奨学金受給者の約4割が留学生、問題は日…
  • 9
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 10
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 7
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 8
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 9
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 10
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中