カタール危機でアジアが巻き添えに
とはいえ長期契約の見直し期が来たら、顧客側は供給源の多様化を模索するかもしれない。その結果、LNG生産大国であるインドネシアやオーストラリアが、新たな契約相手に選ばれる可能性がある。
「カタール危機によって、アジアのLNG輸入国は将来的な契約見直し交渉で優位に立つだろう」と、米シンクタンクの戦略国際問題研究所のリチャード・ラソウ上級顧問は言う。
カタールは、天然ガスから採取されるヘリウム市場でも重要な地位を占める。同国はアメリカに次ぐ世界2位のヘリウム産出国。断交発表を受けて、サウジアラビアへのヘリウム出荷を止めたため、危機は緊迫の度合いを増している。
従来、カタールが輸出するヘリウムは全てサウジアラビアを経由して各地の港湾へ運ばれていた。最も軽い希ガス元素であるヘリウムは、風船を膨らませるためだけでなく、防衛分野でも用いられている。アジア諸国の電子機器や半導体、光ファイバーメーカーはヘリウムなしでは立ち行かない。
カタールのLNG供給大手ラスガスは、同国産ヘリウムの重要性についてウェブサイトでこう指摘する。「00年以降、世界のヘリウム需要はおよそ20%増加している。日本、中国、韓国、台湾の電子機器メーカーの需要に牽引され、消費は今後も伸びるだろう」
【参考記事】カタール孤立化は宗派対立ではなく思想対立
日本の企業にも影響が
そのヘリウムの出荷停止は、東アジア経済に影響を及ぼすはずだ。日本のヘリウム販売大手である岩谷産業は、在庫は約1カ月分だとしている。これまでとは違うルートでカタールから輸入する方法を検討しているが、実現には時間がかかるという。専門家によれば、ヘリウム不足は7月中にも目に見える形で現れるはずだ。
カタールが供給停止に踏み切る前の段階で、世界のヘリウム需要は1年当たり2%という勢いで増加していた。新たな供給ルートが確立されても、危機の影響は尾を引くだろう。
長期的には、アジア諸国は新たな供給先に目を向けるのではないか。
そうした動きは、世界最大のヘリウム貯蔵量を誇るアメリカに恩恵をもたらすかもしれない。世界のヘリウム供給の5分の1を担う米内務省土地管理局は、中東危機を受けてヘリウム生産量を増やしている。