最新記事

ブレグジット

ブレグジットを撤回したくなってきたイギリス人。果たして可能?

2017年7月21日(金)20時02分
レジナルド・デール(米大西洋評議会シニアフェロー)

ロンドンで欧州旗を掲げて抗議する残留派の人々(2017年3月25日) Paul Hackett- REUTERS

<つい最近までタブーだった「EU残留」が、イギリスで公然と語られ始めた。EU離脱に伴う痛みが明らかになるにつれて国民の間にはブレグジットに対する疑いが広がっている>

イギリスのテリーザ・メイ政権は今週、ブレグジット(イギリスのEU離脱)に向けた本格交渉を開始した。もっとも、交渉によってどんな結果を求めているのか、イギリスで知る者は誰一人としていない。

ブレグジットをめぐってメイ政権が混乱に陥り、閣僚たちの内紛が勃発する中、結局イギリスはEUに残留すべきだし、きっと可能だ、と信じる声が一部で高まっている。

残留に言及することは、つい最近まで政治的社会的タブーだったのが嘘のようだ。昨年6月の国民投票で52%対48%の僅差でEU離脱派が勝利した後、離脱はイギリス全体が従うべき「国民の意思」で、反対や逸脱は一切許されないと国全体が信じ込まされた。

それが今では、一部の政治家たちがブレグジットをやめる、つまりEUに残留する可能性を公然と語り始めている。親EUの少数野党、自由民主党の新党首で人気の高いビンス・ケーブル下院議員や、非常に人気のないトニー・ブレア元首相などがその例だ。

EU離脱「間違い」が初めて上回る

そもそも今更イギリスがEUに残留することは可能なのかを問いかける記事も出始めた。「ブレグジットを阻止する運動が加速している」と、英紙フィナンシャル・タイムズのコラムニスト、ゴードン・ラックマンはと書く。

イギリス世論が残留に傾いたとする決定的な世論調査はまだないが、世論の風向きが変化してきたのは確かだ。英世論調査会社YouGovが6月に実施した世論調査では、イギリスのEU離脱が間違いだと回答した割合が、45%対44%という僅差とはいえ、初めて正しいという回答を上回った。

【参考記事】「ブレグジット後悔」論のまやかし

ほんの1年前、メイは「ブレグジットはブレグジットだ」と宣言し、英首相に就任した。そのスローガンは、何があっても国民投票の結果を実行するという確固たる決意を表していた。

【参考記事】ブレグジット後も、イギリスは核で大国の地位を守る

今年1月には「悪いディールを結ぶくらいならノーディール(合意なし)の方がいい」と言ってEU単一市場へのアクセスも断念する「ハードブレグジット」路線を打ち出し、3月にはEUに対し2年後の離脱を正式に通告した。

その後、すべてがくるい出した。メイはやらなくてもよかった解散・総選挙を6月9日に前倒しして実施すると発表。ブレグジット交渉を始めるにあたり政権基盤を盤石にしようと狙ったからだが、賭けは裏目に出た。与党・保守党は過半数割れの惨敗となり、メイはたった10議席のために北アイルランドの保守政党「民主統一党(DUP)」と連立を組まざるを得なくなった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

比大統領「犯罪計画見過ごせず」、当局が脅迫で副大統

ワールド

イスラエル指導者に死刑判決を、逮捕状では不十分とイ

ワールド

アダニ問題が印政界に波及、野党が審議求め議会空転

ビジネス

村田製が新中計、27年度売上収益2兆円 AI拡大で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではなく「タイミング」である可能性【最新研究】
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 5
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳か…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 9
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 10
    「典型的なママ脳だね」 ズボンを穿き忘れたまま外出…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 10
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中