最新記事

北朝鮮

北の最高指導者が暗殺されない理由

2017年7月21日(金)18時00分
アダム・ロンズリー(ジャーナリスト)

40年代に金日成の身を守った護衛団を基に、北朝鮮は世界で最も抑圧的な警察国家の1つ、金一族の利益のために存在する国家へと変貌していく。抑圧のために構築されたシステムの内部には、幾重もの層から成る警備体制が出来上がった。

その中核は通称「第6局」から選抜される5~6人のエリートだ。第6局は最高指導者の護衛を担う部署。アメリカのシークレットサービスに相当するが、人員の規模は約20倍に及ぶ。

金一族をはじめとする上層部の身辺警護を担当するのは、兵力約10万の護衛司令部。そのうち、長年にわたって忠誠心を示し続けた高官のみが金一族の身辺を警護する。

この中心層を囲むのが、護衛司令部のほかのメンバーから成る層だ。彼らは金正恩の行事出席や公的訪問の際に周辺を警護するほか、各地にある最高指導者の邸宅の警備を行う。

首都防衛を担うのは、平壌防衛司令部と平壌防空司令部だ。戦争勃発、あるいはクーデター発生時に市内で戦闘などの任に当たる。そして最後にして最も重装備の層を構成するのが、北朝鮮人民軍第3軍団。西部の港湾都市・南浦から平壌に至る地域を警備している。

【参考記事】軍事でも外交でもない、北朝鮮問題「第3の解決策」

体制離反やクーデターの動きを早期に察知すべく、監視機関も設置されている。国家安全保衛部が密告者ネットワークを通じて市民の日常生活を監視する一方、朝鮮労働党幹部の監視は組織指導部が実施。軍内部では、保衛司令部が軍人担当の秘密警察として機能している。

これら対内諜報・治安機関の任務遂行を助けているのが、最高指導者への個人崇拝の徹底だ。この国では、金一族は神に等しい「信仰」の対象。その殺害をもくろむのは、多くの国民にとって単なる裏切りどころか冒瀆行為だ。皇帝支配時代の中国と同様、「逆賊」は一門そろって処罰されるという恐怖が浸透し、暗殺計画の防止に役立っている。

存在を消された第6軍団

最高指導者の護衛体制が最大の試練にさらされたのは90年代、金日成から金正日への世代交代期だ。当時、89年のベルリンの壁崩壊と91年のソ連崩壊で東側諸国がドミノ倒しになり、北朝鮮も後に続くのではないかという声は多かった。

地政学的な変動だけではない。金正日が後継者となることへの不満が国内に漂い、北朝鮮から漏れ聞こえるクーデター計画や暗殺未遂事件の噂が日本や韓国のメディアを騒がせた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

独メルセデス、安価モデルの米市場撤退検討との報道を

ワールド

タイ、米関税で最大80億ドルの損失も=政府高官

ビジネス

午前の東京株式市場は小幅続伸、トランプ関税警戒し不

ワールド

ウィスコンシン州判事選、リベラル派が勝利 トランプ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中