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くまのプーさんと習近平----中国当局が削除する理由と背景

2017年7月20日(木)16時00分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

そのきっかけは、劉暁波夫妻がくまのプーさんの絵柄があるマグカップを持っている写真がネットに流れたせいかもしれないとCNNは報道しているが、中国大陸では、そもそもそのような画像を見ることはできないし、劉暁波の名前も知らされていない。ましていわんや、劉暁波氏がノーベル平和賞をもらったことや死去したことなど、中国庶民は基本、何も知らないのである。1989年の、あの天安門事件さえ知らされてないから、くまのプーさんの絵柄がついたマグカップを持っている劉暁波夫妻の画像を中国大陸のネットユーザーが観る機会はまずないと言っていいだろう。

ただ中国政府高官たちは中国を海外情報から遮断しているGreat Fire Wall(万里の防火壁)を越えて、自由に海外情報に触れることができるルートを持っているので、予防線を張るという意味で警戒した要素を完全に否定することはできない。ただ、少々解釈が苦しい。

プロパガンダのための既成の習近平イラストに反する

もっと現実的なことは、中国共産党宣伝部は、7億に及ぶ若いネットユーザーが、中国共産党に敬意を持っていないことに焦燥感を抱いていることだ。たとえば党の宣伝機関である中央テレビ局CCTVのニュースを若者は見ないし、ましていわんや党機関紙の「人民日報」など、誰も関心を寄せない。

そこで習近平政権になってから、ともかく「中国共産党に関心を持ち、敬意を払ってもらおう」という目的で、若者でも観るだろうアニメや漫画などを用いて、ネットで習近平を宣伝することを始めた。

たとえば「習大大(習おじさん)の"百姓時間(庶民との時間")」というページをご覧いただくと、その試みは2013年2月3日から始まっていることが分かる。習近平が中国共産党中央委員会総書記になったのは2012年11月15日で、国家主席になったのが2013年3月14日であることを考えると、まだ国家主席になる前から、この種のプロパガンダが始まっていることが分かる。

中国共産党が信用を無くし、庶民の誰も、本当は中国共産党のことなど好きではないのを知っている習近平は、中共中央宣伝部に指示して、若者でも観るであろうアニメや漫画を使うことにした。それも工夫に工夫を重ねて、習近平を「庶民に慕われているが、威厳を持った指導者」として描くことに力を注いでいるのが見て取れる。

以来、習近平がサッカーをしている(中国政府の通信社である新華網が公開した)イラストや、「2015年の習おじさんの外交成績表」あるいは習近平の写真を使ったイラストなどが発表され、イラストによって表現していい「習近平像」というのが、当局によって決められてきたのである。

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