『ハクソー・リッジ』1度も武器を取らず仲間を救った「臆病者」
凄惨な戦闘シーンの合間には慰め合い、故郷の妻や恋人への思いを語る兵士たちの交流が挿入される。登場人物を一人一人丁寧に掘り下げた点は、スティーブン・スピルバーグ監督の『プライベート・ライアン』を思わせる。おかげで観客はドスだけでなく、鬼軍曹のハウエル(ビンス・ボーン)や冷徹なグローバー大尉(サム・ワーシントン)の無事も願うようになる。
最後の肉声でさらに感動
難点は宗教の扱いが大げさなこと。キリスト教が物語の根底にあるのは確かだが、最後のほうで宗教色が唐突に強まるのは不自然だ。それまでドスの行いは宗教的な奇跡というより強靭な意志と精神力のたまものとして表されるから、終盤の演出はわざとらしさが拭えない。
【参考記事】再び『ツイン・ピークス』の迷宮へ
幸いガーフィールドは、謙虚なヒーロー像に一貫して説得力を持たせた。自分の居場所探しには迷っても人助けは決してためらわない、迷いと自信が絶妙に同居するドスを見事に演じた。
映画は観客をクギ付けにし、緊迫感を保ったまま、ずしんとはらわたに響くラストを迎える。最後にスクリーンを飾るのは、生前のドス本人(06年に他界)と戦友たちのインタビュー。
数日間の激戦でドスが75人を救出し名誉勲章を授与されたというテロップを読みながら、戦争体験を語る本人を見ると、改めて畏怖の念が湧き上がる。見終わったばかりのストーリーがいっそう迫力と感動を増し、何日も頭から離れなくなる。
[2017年6月27日号掲載]