最新記事

デザイン

「絵文字」を発明したのは、デザイナーでなく哲学者だった

2017年6月16日(金)14時49分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

『社会と経済――図像統計入門書』より「世界の大国」。これを通じてシンボルの標準化、地図表現の標準化、色彩やレイアウトのルールづくりが進み、「アイソタイプ」のベースが完成した。『Pen Books 名作の100年 グラフィックの天才たち。』より

<グラフィック・デザインの一種であるピクトグラムはいつ、いかにして生まれたか>

トイレや駐車場の場所を示すなど、簡素化された絵だけで情報を伝達するピクトグラム(「絵文字」とも呼ばれる)。グラフィック・デザインの一種だが、実は発明したのはデザイナーではない。

時は1920年代。原型となった「アイソタイプ」を開発したのは、哲学者であり社会学者、政治経済学者でもあったオットー・ノイラートだ。当時、素早く情報を伝達すること以外にも目的があったという。

【参考記事】日本のおもてなしは「ピクトグラム」に頼り過ぎ

今日、社会・経済のあらゆる面において、デザインの重要性が増している。だからこそ、グラフィック・デザインにどのような力があるのか、知っておいて損はないはずだ。そして、そのためには歴史を振り返ることも重要である。

Pen BOOKS 名作の100年 グラフィックの天才たち。』(ペン編集部・編、CCCメディアハウス)では、20世紀の巨匠10人の思想と作品を取り上げている。ノイラートもその1人だ。

ほかにも、原 研哉氏の「グラフィック論」や、大阪芸術大学・三木 健教授の人気講座"APPLE"、現在活躍中のクリエイターなどを紹介した本書から、一部を抜粋し、4回に分けて転載する。第2回は「グラフィックの100年を動かした、巨匠10人の軌跡。」より、アートディレクターの廣村正彰氏が語るオットー・ノイラートの功績について。

※第1回:この赤い丸がグラフィック・デザインの力、と原研哉は言う

◇ ◇ ◇

 

オットー・ノイラート Otto Neurath 1882-1945
哲学者、社会学者、政治経済学者
ウィーン生まれ。統計情報を視覚化するプロジェクトや、読み書きのできない人々に複雑な社会経済の事実を伝える「社会経済博物館」のプロジェクトを通じて視覚教育の研究へ。イラストレーターのゲルト・アルンツやマリー・ライデマイスターとともに絵言葉「アイソタイプ」を開発。ウィーン学団の指導的人物のひとり。

オットー・ノイラート(語り手:廣村正彰)

誰もが理解できる、ピクトグラムを発明。

 日常のあちこちで使われているピクトグラムやサイン。「絵文字」とも呼ばれるこうした視覚言語の原型となった「アイソタイプ」を、1920年代に開発したのが、哲学者、社会学者、および政治経済学者のオットー・ノイラートだ。

 開発当初は、現在のピクトグラムのように素早く情報を伝達すること以上に、戦争のせいで教育を受けられなかったウィーンの労働者や、言葉がわからない移民に、複雑な社会経済を教育することを目的としていた。

「ノイラートは、情報の新しい視覚化の手法を提示した存在です。言葉は学習しなければ理解できませんが、この絵言葉なら視覚さえあれば、年齢や国籍を問わず、誰にでも理解できます」

 どこでも目にする棒線画も、現代では当たり前になった案内図や路線図も、元をたどればすべてアイソタイプに行き着くと廣村正彰さんは言う。どちらも雑多な情報を簡易にまとめたことで、ぐっと伝達力を高めている。

「人の脳は何かを記憶する時に、瞬時に物体の色やマテリアル、面の情報を省き、アウトラインという小さな情報だけを脳の引き出しにしまうもの。そうして複雑なものを簡略化して理解を深めたり早めたりする。円と棒線で人間を表現することは、人々の理解のシステムに適っているのでしょうね」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

尹大統領の逮捕状発付、韓国地裁 本格捜査へ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 8
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 9
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 10
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中