バドミントン王国インドネシアの憂鬱 国際大会で決勝トーナメント進めず
青年スポーツ省も協会査問へ
インドネシア政府青年スポーツ省は今回の結果を重く見て、選手役員、PBSI幹部、関係者を近く呼び出して、説明をまずは聞きたいとしている。イマム・ナラウィ大臣は「選手団のブディハルト代表に詳しい敗因の理由を質したい」としている。これまでにPBSIなどに寄せられたファンの声に「(敗北した相手の)インド代表選手をなめていたのではないか」との批判が多くあるが、スシ・スサンティさんなどは「決してそんなことはない」と全面否定。こうしたことから大臣自ら代表団や協会幹部を呼んで敗因分析に乗り出そうとしている。
インドネシアのバドミントン界は2012年のロンドンオリンピックの女子ダブルスで、中国、韓国の選手とともに「故意に試合に負けようとした無気力試合」を行ったと認定され、選手が失格処分を受けたことがある。中国、韓国はいざ知らず、インドネシアでは国技であり国の名誉と誇りがかかり、金メダルの可能性のある数少ないオリンピック競技での失格に国中がショックに見舞われた。
だがその後は、むしろこの不名誉な処分をバネにPBSIは若手選手の発掘、育成、強化に積極的に取り組んできた。
負けても悔しがらない?
しかし今大会では完璧に打ちのめされた。その敗因の詳しい分析はまだだが、全体として女子より男子選手が競り合いや勝負所でミスをするケースが多く、表情にも余裕がなく、逆に悔しさを前面に出す訳でもなかった。このため「特に男子選手のメンタルの弱さが敗因ではないか」(インドネシア語紙記者)との指摘が出ている。現在より設備、予算の面で格段に見劣りする時代に朝から晩まで一心不乱にただ練習に打ち込んだスシ・スサンティ選手を記憶している国民はテレビに映った男子選手の「負けても悔しがらない選手」「闘争心に乏しいスマートな選手」では世界の強豪とは戦えない、と憂鬱を感じたことだろう。
スポーツは音楽と並んで人の心を豊かに、同時に人々を夢中にして団結させる。価値観の多様性が問われようとしている今のインドネシアだけに、バドミントン王国の一日も早い復活が待ち望まれている。
[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など
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