最新記事

イラク

ISIS戦闘員を虐殺する「死の天使」

2017年6月15日(木)14時00分
トム・オコナー

イラク北西部のアブ・バージで仲間とポーズをとるアブ・アズラエル(前列中央、5月30日) SOCIAL MEDIA

<一時ISISに半分近くを支配されたイラク国土の奪還に力のあった「勇士」は、斧や剣を振り回し、ISIS戦闘員の遺体に火をつけ切断する残忍さで世界中に知られる男。その素顔>

イスラム教とユダヤ教で「アブ・アズラエル(死の天使)」の異名を取るその男は、テロ組織ISIS(自称イスラム国)への残忍な報復攻撃で世界の注目を集めたイラクのシーア派民兵組織の司令官だ。

本名をアイユーブ・ファレ・ハッサン・アル・ルバーイーというアズラエルは、斧と剣で敵にとどめを刺す。死んだISIS戦闘員の顔に火を付けて燃やしたこともある。死体を切断して批判されたときには、イマーム(イスラム教の指導者)に罪を告白した。

アズラエルの視線の先には今、シリアとの国境地帯が広がっている。最近イラク北西部の村々からISISを追い出したアズラエルは、どんな手を使ってもISISの脅威からイラクを守ると本誌に語った。

世界の関心はアンチヒーローとしてのアズラエルに集まるが、彼の任務はそれ以上に重要だ。シリアとの国境地帯からISISを掃討できれば、シリアからイラクへの様々な支援ルートを確保して、大幅に縮小したISISの支配地域を完全に潰すことができるかもしれない。「カリフ制イスラム国家」の終わりだ。

「イラクのランボー」

「我々は今もシリアとの国境地帯にあって、ダーイシュ(ISISのアラビア名)に大きな損害を与えながら追い詰めている」と、アズラエルはツイッターに投稿した。「我々は虐待された全宗派の人々を守り、我が国への犯罪者の侵入を防ぎ、避難した人々が故郷に戻れるよう助ける」

アズラエルが初めて脚光を浴びたのは2015年、米ハリウッドの映画俳優シルベスター・スタローンが演じたベトナム戦争の帰還兵に例えて「イラクのランボー」と呼ばれたときだ。アズラエルのがっちりして筋肉質な体格は、所属するシーア派民兵組織「カタイブ・アル・イマーム・アリ」の戦闘員の中でも常に目立った。

カタイブ・アル・イマーム・アリはイランで訓練を受けたイラクのシーア派民兵組織「人民動員隊(PMF)」の傘下に置かれ、非正規軍ながらイラク政府軍と統合部隊を結成して作戦を行っている。

アズラエルは先月下旬、ISIS戦闘員に対する最新の見せしめとして、ISISの支配地域だったイラク北部のアル・アドナニヤという村を焼き討ちしたとする動画をソーシャルメディアに投稿した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米プリンストン大への政府助成金停止、反ユダヤ主義調

ワールド

イスラエルがガザ軍事作戦を大幅に拡大、広範囲制圧へ

ワールド

中国軍、東シナ海で実弾射撃訓練 台湾周辺の演習エス

ワールド

今年のドイツ成長率予想0.2%に下方修正、回復は緩
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 10
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中