最新記事

死生観

死が迫ると人は幸福を感じる?--米研究

2017年6月7日(水)16時40分
ハンナ・オズボーン

死を迎えると人は意外とポジティブな気分にもなるらしい Nastco/iStcok.

<死が間近に迫ると不安や恐怖に苛まれるのではなく、愛や幸福を感じる人が多いことが研究でわかった。本当なら、緩和ケアの促進に拍車がかかる可能性も>

いつかやってくる死におびえる人は多い。自らの死を極端に恐れる、「死恐怖症」(タナトフォビア)という症状もあるほどだ。最近発表された研究でも、大半の人が死を恐ろしいイメージで捉えていることが指摘されている。

【参考記事】トランプ現象の背後に白人の絶望──死亡率上昇の深い闇

しかし同じ研究によると、現実に死が間近に迫っている者では事情が違い、一般に考えるよりはるかに肯定的な体験として死を捉えていることがわかった。

学術誌サイコロジカル・サイエンスに6月1日付けで掲載されたこの研究によると、死が身近に迫った人々の言葉を調査した結果、恐怖や不安に関連する言葉は少なく、意外なほど前向きに死と向き合っていることが判明したという。

ノースカロライナ大学チャペルヒル校の心理学者などからなる研究チームは、絵本作家のエイミー・クラウス・ローゼンタールが亡くなる10日前に記したコラムの言葉遣いが「愛と希望に満ちていた」点に着目したという(ローゼンタールはがんのため今年3月に他界した)。

研究論文の執筆者であるカート・グレイは声明の中で、「死が目前に迫っている人が肯定的なのは不自然に思えるが、実際にはよくある反応だということが、今回の研究により明らかになった」と述べている。

末期患者と死刑囚の言葉を分析

研究では、筋萎縮性側索硬化症(Amyotrophic lateral sclerosis:ALS)の末期にある患者と死刑囚という2つの集団について、死を目前にした時期の発言内容を分析した。ALS患者については亡くなるまでの数カ月間に書かれたブログを、死刑囚に関しては刑執行前に残した最期の言葉を調査対象とした。

【参考記事】アルツハイマー病による死亡率がアメリカで急増

研究チームは、この2つの集団の比較対象として、死期を意識していない一般の人たちを対象に、自分が末期患者になった気持ちでブログを書いてもらったほか、自分が死刑囚だったら最後にどんな言葉を残すかと尋ねた。

両者の言葉を比較した結果、一般の人たちが想像した最期の言葉のほうが、実際に死に直面した人による言葉よりも、ずっと否定的であることが判明した。グレイはこうコメントしている。「死が近づいたときの感情は、悲しみや恐怖が多くを占めると考えがちだ。だが実際は、一般の人が想像するように悲しくも恐ろしくもなく、むしろ幸せな気持でいることがわかった」

【参考記事】「尊厳死」法制化で悩む日本、高齢化と財政難が拍車

「心身両面において、人間の適応力は驚くほど高い。死が迫っていようと、人は日常生活の営みを続ける。想像の段階では、死は孤独で意味のないものと捉えられがちだ。しかし、実際の言葉は、愛や社会とのつながり、そして意義に満ちている」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中