ディズニーランドの行列をなくすのは不可能(と統計学者は言う)
米カリフォルニア州のディズニーランド(2015年5月) Mario Anzuoni-REUTERS
<世の中に情報や数字はあふれているが、賢く活用できていないことがほとんど。そこで役に立つのが「統計的思考」だ。身近なテーマパークの「行列イライラ問題」ひとつ取っても、違った世界が見えてくる>
株価など企業の情報があふれていてもほとんどの人は株で大儲けできず、栄養に関する情報をかき集めても望ましい体型を維持できる人は少なく、IT分野に巨額の投資をしているのに飛行機の遅延や交通渋滞はなくならない。
今では「フェイクニュース」という言葉がすっかり市民権を得てしまったが、それが嘘であるか事実であるか以前の問題として、情報を賢く活用し、世の中を正しく理解し、あるいは良くすることはかくも難しい。
「現代社会は数値の測定に固執しているが、誰も賢くなっていないのだ。私たちはかつてないほど多くの情報を集めて、保存して、処理して、分析している――いったい何のために?」と、ビジネス統計学を実践するカイザー・ファングは問いかける。
そんな時に役立つのが「統計的思考」だ。
ファングは著書『ヤバい統計学』(矢羽野薫訳、CCCメディアハウス)で、ディズニーランド、交通渋滞、クレジットカード、感染症、大学入試、災害保険、ドーピング検査、テロ対策、飛行機事故、宝くじという10のエピソードを題材に、統計的思考を駆使する専門家たちを紹介し、数字の読み解き方を指南している。
ここでは、平均という概念を扱った本書の「第1章 ファストパスと交通渋滞――平均化を嫌う不満分子」から、ディズニーランドの行列に関する箇所を抜粋し、2回に分けて転載する。
行ったことのある人なら誰でも、アトラクションの順番待ちの列にイライラした経験があるはず。なぜディズニーはもっと収容能力の大きな施設をつくってくれないのだろうか。
エドワード・ウォーラー博士とイベット・ベンデック博士は、ウォルト・ディズニー・ワールド・リゾートの「達人」という称号では足りないくらいだ。2007年10月20日、2人はマジックキングダムのアトラクションを13時間足らずで制覇した。乗り物、ショー、パレード、ライブパフォーマンスなど総計50個。バズ・ライトイヤーのスペース・レンジャー・スピン、グーフィーのワイズエーカー・コースター、スプラッシュ・マウンテン、マッド・ティーパーティー、プーさんの冒険......とにかくパーク内のすべてだ! 一度は経験してみたいと思うだろう。
ディズニーランド通に言わせれば、そんなことは不可能なはずだ。混雑している日は、広大なパーク内を立ち止まることなく歩き続けても、人気アトラクションのうち4つに乗れたら幸運だ。実は、ウォーラーとベンデックは、「究極のマジックキングダム・ツアープラン」を考案したレン・テスタの助けを借りていた。これはすべてのアトラクションを可能なかぎり最短時間で回る綿密なルールガイドで、「個人的な快適さをすべて犠牲にする」から疑うことを知らない初心者にはおすすめしないと、テスタは警告する。
レン・テスタはノースカロライナ州グリーンズボロ出身の30代のプログラマーだ。ディズニーのテーマパークを訪れて不満を抱いている世界中の人々の守護聖人でもあり、短時間で多くのアトラクションを回る詳細なツアーガイドを作っている。話題になりやすいのは「究極のプラン」だが、ほかにも幼い子供、家族連れ、10~12歳の子供、元気な高齢者、幼い孫を連れた祖父母など、ほぼあらゆるニーズに応えたツアープランを作ってきた。とくに力を入れているのは熱狂的なディズニーファン向けのもの。彼らは最も忠実な顧客であり──最も要求の多い顧客になりがちだ。そんな彼らの息つく暇もないツアーの体験談がファンサイトに投稿され、メディアに提供されている。そこには愛情のこもった苦情がしばしば登場する。
「夏にディズニーランドへ行くのは、ハリケーンの季節にバハマ諸島をクルージングするようなもの。自分で自分の首を絞めている」
「開門と同時に、ベビーカーを武器に全力疾走するサッカーママ軍団と一緒にスペースマウンテンまでダッシュしたことがなければ、一人前とは言えない」
「午前8時に勢いよく門が開くと、体が弱い人と目が覚めきっていない人はなぎ倒される」
「アトラクションに乗っている時間より、並んで待っている時間のほうが長く感じた──本当に待ち時間のほうが長かった! 90分並んだアトラクションがたった5分で終わるなんて、それでも並ぶ自分が正気かと思わずにいられない」
「5年前にディズニーのエプコット・センターで、肝心なときに弟がトイレに行きたがって待たされた。あのことがいまだに許せない」