アメリカが北朝鮮を攻撃したときの中国の出方 ── 環球時報を読み解く
問題は、最後のこの部分だろう。
どんなに米中蜜月を演じても、中国には絶対に譲れない一線がある。
朝鮮半島を米韓が統一して「民主主義政権」を米国主導で形成することだけは、絶対に認めない。陸続きに米軍がいるなどということを認められるはずがない。
米中蜜月を演じたのは、「北朝鮮に対して示した威嚇」だったが、この最後の「米韓が38度線を越えたら中国が軍事介入する」という宣言は、「米国に対する警告」だ。
中国はなぜ北の核ミサイル開発には絶対反対なのか?
中国は北朝鮮の核・ミサイル開発には一貫して断固反対している。
理由としては3つほどある。
1. いつ中国に向けてくるか分からないので、中国に脅威を与え、放射能汚染にもさらされる。
2. 中国は中国共産党による一党支配体制を維持したいので、地域を不安定化させることには絶対に反対。
3. これが最も重要だが、北朝鮮が核を保有すれば、韓国も保有しようとし、必ず「日本だけ持ってないのは安全保障上危険だ」として、日本が核を持とうとする。それだけは許せない!
中朝国境に集中配備されているという中国軍の目的は
なお、中朝国境周辺に中国軍が集まり臨戦態勢に備えているという情報があるが、外交部や国防部のスポークスマンは否定している。軍事機密なので漏らさないだろう。しかし中国軍を集中的に配備する目的は、北朝鮮の暴発に備えるためであって、米韓の開戦に備えるためではない。
全面戦争は「絶対に」あってはならないと、中国は思っている。
中国はいま米国と戦うつもりはなく、あらゆる手段を駆使して、戦争を食い止めるだろう。
中国が望んでいるのは「対話」(六者会談)であり、米朝が「休戦協定を平和条約に持っていくこと」である。そうすれば、米軍が韓国に駐留する正当性がなくなり、北朝鮮に核・ミサイル開発を中止するよう、中国も説得できるようになる。
休戦協定の冒頭には「最終的な平和解決が 成立するまで、朝鮮における戦争行為と、あらゆる武力行為の完全な停止を保障する」旨の文言がある。
それを破っているのは米韓だという、強い批判が中国にはある。
朝鮮戦争において休戦協定を結ぼうと、連合国を代表する米国が言い出した時、韓国の李承晩大統領がどうしても承諾しなかった。なんとしても韓国が朝鮮半島を統一するのだと言い張った。そこで米国はやむなく「米韓相互防衛条約」を締結することを約束。その上で休戦協定を結んだのだから、最初から矛盾があった。
その矛盾が、こんにちの朝鮮半島問題を生んでおり、根本的矛盾を引きずっているのが北朝鮮問題であることは、客観的事実として認めなければなるまい。
その事実を直視する勇気を日米韓が持ったときに、初めて北朝鮮問題は解決する。
[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』『完全解読 中国外交戦略の狙い』『中国人が選んだワースト中国人番付 やはり紅い中国は腐敗で滅ぶ』『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』など著書多数。近著に『毛沢東 日本軍と共謀した男』(新潮新書)
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。