最新記事

日本外交

自衛隊の南スーダン撤退で見えた「積極的平和主義」の限界

2017年3月24日(金)16時15分
辰巳由紀(米スティムソン・センター主任研究員)

首都ジュバで排水管を組み立てる自衛隊員(14年) James Akena-REUTERS

<治安悪化が深刻な現地から自衛が引き揚げれば、日本はリスクを負わない国だと思われる>

日本政府は今月10日、国連の南スーダン派遣団に参加している陸上自衛隊の施設部隊を5月末で撤収させる方針を決めた。部隊は12年から平和維持活動(PKO)に加わり、首都ジュバ近郊で道路建設などに当たってきた。

安倍晋三首相は記者会見で、部隊が担当する施設整備に「一定の区切りをつけることができると判断した」と説明。今後は「積極的平和主義」の旗の下、人道支援などで平和づくりに貢献していくと強調した。

公式見解はさておき、今回改めて浮き彫りになったのは、海外で人道支援や災害救援以外の任務に当たる自衛隊の限界だ。安全保障関連法が昨年3月に施行されたにもかかわらず、日本が果たす「積極的な」役割は大幅に限られている。

その原因は、今なお日本の政治と社会に強く残る、自衛隊が海外で戦闘に近い状況に直面することへの強い抵抗感。抵抗感を引き起こしているのは、日本に強く残る第二次大戦のトラウマだ。戦争の惨禍は海外における軍隊の冒険主義がもたらしたと考えられているため、日本社会は自衛隊員が海外で発砲、あるいは人を殺さざるを得ない状況に置かれることに嫌悪感を抱いている。

【参考記事】南スーダンは大量虐殺前夜

「札束外交」に逆戻り?

それゆえ日本政府は、PKO協力法に自衛隊の参加条件を定めたPKO5原則を盛り込んだ。

南スーダン派遣団に参加した自衛隊について激しい議論を呼んだのは、南スーダンは内戦状態なのかどうか、という点だ。もしそうなら「当事者間の停戦合意の成立」を求めた5原則の第1条に違反している恐れがあり、政府が自衛隊を撤収させてもおかしくない。

この議論は政府が南スーダンに駐留する自衛隊に「駆け付け警護」の任務を付与しようとしたことで、さらに紛糾した。

昨年11月、駆け付け警護が新たな任務として加えられたが、自衛隊が活動を継続できるほど南スーダンが安全なのかどうかは依然として疑問視されていた。こうした状況での撤退発表は、南スーダンの治安が悪化しており、自衛隊員に死傷者が出る恐れがあることを政府が暗黙のうちに認めたのと同じだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ミャンマー地震の死者1000人超に、タイの崩壊ビル

ビジネス

中国・EUの通商トップが会談、公平な競争条件を協議

ワールド

焦点:大混乱に陥る米国の漁業、トランプ政権が割当量

ワールド

トランプ氏、相互関税巡り交渉用意 医薬品への関税も
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジェールからも追放される中国人
  • 3
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中国・河南省で見つかった「異常な」埋葬文化
  • 4
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 5
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 6
    なぜANAは、手荷物カウンターの待ち時間を最大50分か…
  • 7
    不屈のウクライナ、失ったクルスクの代わりにベルゴ…
  • 8
    アルコール依存症を克服して「人生がカラフルなこと…
  • 9
    最古の記録が大幅更新? アルファベットの起源に驚…
  • 10
    最悪失明...目の健康を脅かす「2型糖尿病」が若い世…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えない「よい炭水化物」とは?
  • 4
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 7
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 8
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 9
    大谷登場でざわつく報道陣...山本由伸の会見で大谷翔…
  • 10
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中