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法からのぞく日本社会

高齢ドライバーの問題を認知症患者に押しつける改正道路交通法

2017年3月21日(火)18時46分
長嶺超輝(ライター)

――昨年、高齢ドライバーによる交通事故が盛んに報道された時期もありました。

ただ、その全てが認知症患者によって起こされた事故ではありません。例えば昨年11月に立川で起きた事故は、83歳の女性が病院の駐車場から出るゲートのバーを突き破って20メートル以上も暴走し、向かいの歩道にいた男女に突っ込んだというものでした。

この女性は認知症ではなく、単に夜通し看病し極度の疲労状態の中、うっかりアクセルとブレーキを踏み間違えたというものだったと聞いています。そうであれば高齢だから、認知症だからということではなく、夜勤明けの医師や看護師も同種の危険があるという意味では例外ではありませんよね。

――どのようにすべきだとお考えですか。

私はアクセルとブレーキを踏み間違えない構造の自動車を開発し普及させることにまず着手すべきと考えます。

具体的には、足を使えない障害者の方のための特殊車両として、ハンドル部分にアクセルが付いている仕様の車はすでに存在します。ちょうどバイクのような構造ですが、要するに今の「アクセルのすぐ隣にブレーキがある」という間違えやすい構造を改善してくれるのであればなんでも構いません。

1つのペダルで両方の機能を兼ね備える仕組みも開発・販売されています。かかとを軸として踏み込むとブレーキ、横にずらすとアクセルになるというものですが、最終的に事故が予防できるのであればそれでもいいと思います。

その他にも急発進を検知したら自動的にブレーキがかかるような運転システムを、もっと普及させるべきです。

また、高齢者は視野が狭くなり、ブレーキの反応も遅れてしまいがちですので、路上でドライバーから見えにくい位置にいる歩行者の位置を機械的に検知して、事前に警告するITS(高度道路交通システム)の開発も急がれます。

【参考記事】もしも自動運転車が事故を起こしたら......こんなにも複雑!

事故の原因は様々であり、ときに複合的なものですが、少なくとも「認知症患者は危険なのだから一律に公道から排除せよ」という乱暴なやり方よりはましなのではないかと思います。

◇ ◇ ◇

免許証の「自主返納」制度も始まり、自治体ごとに特典も設けているが、自ら運転をやめようとする人は、なかなか増えない。運転を諦めることは、自分が年老いている事実を正面から認めることになり、辛い決断だ。若いころにはミッション車を走らせていて、運転に自信やプライドを持つ世代でもある。高齢者に対し、家族が無理に運転をやめさせようとして、関係性に亀裂が生じることもある。

この超高齢化社会では、高齢ドライバーないし認知症ドライバーを、十把ひとからげに危険視して公道から排除するのではなく、「共存」を目指す方向性を模索するほうが、長い目で見て有益ではないだろうか。

誰もが将来、高齢者になるのだから。

[筆者]
長嶺超輝(ながみね・まさき)
ライター。法律や裁判などについてわかりやすく書くことを得意とする。1975年、長崎生まれ。3歳から熊本で育つ。九州大学法学部卒業後、弁護士を目指すも、司法試験に7年連続で不合格を喫した。2007年に刊行し、30万部超のベストセラーとなった『裁判官の爆笑お言葉集』(幻冬舎新書)の他、著書11冊。最新刊に『東京ガールズ選挙(エレクション)――こじらせ系女子高生が生徒会長を目指したら』(ユーキャン・自由国民社)。ブログ「Theみねラル!」

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