高齢ドライバーの問題を認知症患者に押しつける改正道路交通法
写真はイメージです RobertCrum-iStock.
<高齢の運転者による交通事故が多く報じられているが、今月の道交法改正で果たして事故は防げるようになるのか。「認知症への誤解や偏見を助長するだけ」と主張する外岡潤弁護士に話を聞いた>
3月12日、改正道路交通法が施行され、認知症と診断されたドライバーの運転免許を取り消すための手続きが強化された。
75歳以上の高齢ドライバーが免許証を更新する際に行われる、簡易的な「認知機能検査」に引っかかった場合は、医師の検査を受けなければならない。もし認知症と診断された場合は、免許取消しの対象となる。
また、75歳以上の高齢ドライバーが信号無視や一時不停止など、一定の違反をした場合にも、臨時で認知機能検査が行われ、やはり同様の流れとなる。
昨今、高齢ドライバーの起こした交通事故が多く報じられ、今回の法改正を必要なものと受け止める人も多いかもしれない。しかし、「このような処置は認知症への誤解や偏見を助長するだけ」との意見も一方であり、法改正に異議を唱える専門家も多い。
高齢者福祉をめぐる法律問題に特化した、法律事務所おかげさま(東京)の外岡 潤(そとおか・じゅん)弁護士に話を聞いた。
――今回の道路交通法改正について、どうお考えでしょうか。
「高齢、特に認知症のドライバーによる事故を防ぐ」という目的でなされたのであれば、問題を根本的に解決する方策ではないとみています。
そもそも、認知症の診断は専門医にも難しいものとされています。認知症はせん妄やうつ病等の他の病状と混同されることも多く、またその症状については個体差が大きく、その程度は日々変動し、行きつ戻りつする流動的なものだからです。
専門外の一般的な心療内科医や精神科医であれば、なおさら正確な診断は困難なはずですが、認知症専門医は人数が少ないので、認知機能検査に引っかかった高齢者をすべて診るには、専門外の医師の手も借りるしかなくなります。
そうなると誤診も増えますし、逆に「問題なし」とされた人が事故を起こし、調べてみたら実は認知症であったというケースも出てくるでしょう。そうなると医師の診察ミスとして責任追及されかねず、ますます担い手は減ることになります。
また現実的な話として、言ってしまえば、仮に認知症の高齢者から免許を取り上げたところで、無免許で運転してしまえば何の抑止力にもなりません。
【参考記事】排気ガスを多く浴びると認知症になりやすい? カナダ研究機関の調査結果で
――問題は根本的に解決されず、しかもデメリットも目立つ法改正といえるのでしょうか。
もちろん、制度として一定の制限をかぶせ、徐々に危険性の高いドライバーに引退してもらうこと自体は、まったく無意味といえないと考えます。ですが、問題はそれが交通事故を予防するという目的を達成する最善の策とは言いがたい点です。
法的な観点から見れば、これはあくまで可能性としてですが、今回のように75歳以上の免許更新時などに、医師による認知症検査の対象となる範囲を大幅に拡大し、認知症と診断されたら未来永劫免許を剥奪されるという仕組み自体が、「憲法違反であり無効である」と主張され裁判で争われるかもしれないと思います。