最新記事

米軍事

対テロ軍事作戦に積極的なトランプが抱える血のリスク

2017年3月10日(金)19時30分
ダン・デルース

しかし明確な外交プランのない大胆な軍事行動は、想定外の結果をもたらすこともある。膠着状態に陥ったイエメン内戦の解決策を持たないまま(そしてサウジアラビアとイランの内戦介入への対応策もないまま)、テロ対策として軍事目標の攻撃だけに焦点を絞ってもイエメンを安定化することはまずできない。またAQAPの勢力拡大を許したイエメンの根本的な宗派対立を解決することもできない、と専門家は言う。

テロ組織ISIS(自称イスラム国)の活動が国際的な関心を独占するなかで、この2年間続くイエメンの内戦の混乱と宗派対立に乗じて、AQAPはイエメンで勢力と支配地域を拡大してきた。内戦では、サウジアラビア主導の軍事同盟の後ろ盾があるハディ大統領の勢力と、イランが支援する武装勢力ホーシー派の間で対立が続いている。

今回米軍がAQAPへの攻撃を急いだことは、軍部や情報機関の上層部が、AQAPが欧米でテロを実行する脅威を懸念していることをはっきりと示している。

シンクタンク「国際危機グループ」が先月まとめた報告書によると、イエメンのAQAPは「これまでで最も強大」になっている。内戦下で横行する密輸や拡大する治安空白、ハディ大統領を支持するスンニ派とホーシー派を支持するシーア派の宗派対立に乗じて、勢力を拡大している。

民間人の犠牲をどう避けるのか

匿名で取材に応じたアメリカの情報機関の職員は、AQAPは「強力で危険な敵」と語っている。「イエメン国内の混乱が拡大しても、欧米を攻撃するというAQAPの長期的な関心には変化はない」

トランプ政権は、複雑な対立が絡んで泥沼化し人道危機の深刻さが増すイエメン内戦の最中に、AQAPの掃討に取り組むという難題を抱えている。

オバマ政権はイエメンの和平協議の仲介を試みたが、両陣営がたびたび停戦合意を破って戦闘を再開する状態が続いたため、何の成果も上げられなかった。オバマ政権が行ったイエメンに関する議論の中身はもっぱら人道支援の問題に終始していたと、元政府関係者は語った。

一部の軍関係者は、まずはテロ対策で一定の成果を上げるべきで、より本格的な人道支援に着手するのはそれからだと感じており、人道支援を優先するオバマ政権の議論の進め方に苛立った。だが、AQAPを標的にした空爆作戦の規模を拡大させることにもリスクは伴う。

多数の民間人が巻き添えになる空爆を増やせば、便宜上AQAPや他の武装組織と手を結んだ地元の武装勢力を激昂させ、暴力の増長につながった彼らの不満を更に強める可能性がある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米プリンストン大への政府助成金停止、反ユダヤ主義調

ワールド

イスラエルがガザ軍事作戦を大幅に拡大、広範囲制圧へ

ワールド

中国軍、東シナ海で実弾射撃訓練 台湾周辺の演習エス

ワールド

今年のドイツ成長率予想0.2%に下方修正、回復は緩
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 10
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中