対テロ軍事作戦に積極的なトランプが抱える血のリスク
そこでトランプ政権は、サウジアラビア主導の連合軍の軍事作戦に対する支援を強化する構えだ。米政府関係者の話によると、米国務省はサウジアラビア政府への精密誘導兵器の販売を許可した。ただしホワイトハウスはまだ最終決定を下していない。米紙ワシントン・ポストが最初に報じた今回の提案は、連合軍の空爆による民間人の犠牲拡大を懸念してサウジアラビアに対する武器販売の一部を禁止したオバマ政権の方針を、大転換するものだ。
もしトランプ政権がイエメンで米軍の役割をもっと拡大させ、民間人を標的にしていると国際社会が批判する連合軍への支援を増やせば、アメリカが泥沼に引きずり込まれかねないと、軍事アナリストや元政府関係者は指摘する。
「イエメンは、アメリカが輝かしい局地戦を展開できる場所ではない。イエメンで戦争をすれば、ひどく危険で血なまぐさい結果が待っている」と国防総省の元職員は言った。
今月初めに米軍が空爆を決行したのには伏線があった。1月29日にSEALsは、アラブ首長国連合(UAE)の兵士の援護を受けてAQAPの急襲作戦を実施した。敵の激しい反撃でSEALs隊員1人が死亡、複数の負傷者を出し、民間人も多数巻き添えになった。国防総省は民間人の被害状況を調査中としている。同省の高官は、作戦でAQAPに関する重要な情報を入手したと成果を強調する一方、情報はまだ精査中としており、作戦の詳細も明かしていない。
最大の標的AQAP
それに対して先日の空爆は命中精度が高く、グアンタナモ米軍基地の元収容者で2009年にイエメンに送還されたヤシール・アル・シルミをはじめ、AQAPの有力な指導層を複数殺害した。掃討作戦のペースが加速していることから、米軍が一定の時間をかけて作戦の準備を進めていたことが分かる。国防総省のジェフ・デービス報道官は先週、報道陣にこう言った。「今回の作戦は、計画や構想に何か月もの時間を費やした。陸軍の指揮官たちが立案を開始したのは昨年までさかのぼる」
アメリカには地上戦でも助っ人がいる。昨年4月にはUAEとサウジアラビアの軍特殊部隊がAQAPの最大拠点だった南部の港湾都市ムカラを奪還。港湾の管理と市民への課税などで数百万ドルを調達していたAQAPに打撃を与えた。
以後、イエメンの対テロ作戦はUAEの特殊部隊が主導権を握るようになった。UAEを後ろ盾とする軍は内陸から沿岸にかけて進攻し、バルハフ地区にある天然ガスのプラントも掌握した。最終的には北へ進軍し、AQAPを支配領域から追い出そうとする可能性があると、専門家は指摘する。
そうなれば、イエメンの内戦開始以来サウジアラビアの介入に乗じて勢力を挽回したAQAPも、いくらか後退させられるだろう。米NGO国際危機グル―プの報告書は、AQAPが息を吹き返した要因について、サウジアラビア主導の連合軍がフーシ派の武装組織を倒すことだけを「ほぼ一心不乱に」目指したからだと指摘。その間にAQAPは連合軍が供給する武器を手に入れ、銀行強盗などで資金を調達したという。