トランプに雇用創出を約束した孫正義の、最初の「買い物」は?
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いち早くトランプ・タワーを訪れて雇用創出を約束した孫正義は世界を驚かせたが Brendan McDermid-REUTERS
<ソフトバンクが米投資会社の買収を発表したが、これでは中西部のブルーカラーは救われない>
日本の通信大手ソフトバンクグループの孫正義社長は昨年12月、米大統領選に勝利して間もないトランプを訪問し、アメリカで500億ドルの投資を行い、5万人の雇用を創出すると約束した。
一見すると孫は、就任前から雇用創出の「実績」をアピールしたがっていたトランプに助け舟を出そうとしたようだ。そして先月、最初の舟を送り出した。傾きかけた投資会社フォートレス・インベストメント・グループを約33億ドルで買収すると発表したのだ。
だがソフトバンクがフォートレスを買収しても、中西部の工場労働者は救われない。マンハッタンの高層ビルにいるファンドマネジャーの傷ついたエゴが癒やされるだけだ。トランプ時代の約束とはどういうものかをこれほど端的に示す例はない。
【参考記事】ついに中国で成立した「トランプ」商標登録
フォートレスは07年2月にプライベート・エクイティ(未公開株)やヘッジファンドの運用会社としては初めてIPO(新規株式公開)に踏み切り、大きな注目を浴びた。同社はブッシュ政権時代の信用ブームで急成長し、上場時の運用資産は約300億ドルに上っていた。IPO価格が1株18・50ドルだったフォートレス株は公開初日に35ドルまで上昇。株式時価総額は約140億ドルになり、経営陣の個人資産も一気に膨れ上がった。
だが凋落も早かった。
市場が崩壊しても損失が出ないどころか、うまくやれば大いに稼げるのがヘッジファンドの醍醐味だ。しかし08年の金融危機後、フォートレスははかばかしい投資実績を出せなかった。同社の株価は07年2月から09年1月までに97%も下落。その後、市場全体が回復するに伴いどん底からはい出したが、もはやかつての勢いはなく、ソフトバンクが買収を発表する直前の株価は5・82ドルだった。
上場後のこの10年間でスタンダード&プアーズ(S&P)500社株価指数が60%余り上昇する一方で、フォートレス株は約80%下落したことになる。