最新記事

ロシア

プーチンはシリアのISISを掃討するか──国内に過激派を抱えるジレンマ

2017年3月8日(水)15時30分
ラヒーム・ラヒモフ(米ジェームズタウン財団「ユーラシア・デイリー・モニター」政治アナリスト)

シリアのラッカでISISの旗を振る戦闘員(2014年) REUTERS

<チェチェン共和国でテロ攻撃が増加している。ISISに参加していた戦闘員が、ISISの劣勢を受けてロシアに帰国しているからだ。ISISを壊滅させれば、その数はさらに増え、チェチェンの分離独立運動も激しさを増すだろう>

ロシアが独立運動を警戒するチェチェン共和国で、過激派による銃撃事件や、暴力による死傷者の数が、15年から16年の間に急増した。今年に入り、チェチェン内務省とロシア大統領直属の国家親衛隊は大規模な対テロ作戦を実施し、テロ攻撃を企てた疑いのある地下組織を摘発した。

こうした動きは、チェチェンの若者が一層過激化する傾向を反映している。過激派の台頭は、領土を持った疑似国家としてのテロ組織ISIS(自称イスラム国)の弱体化がもたらした副産物だ。シリアやイラクの支配地域での国家樹立を狙うISISは、近年までチェチェンから大量の戦闘員を動員した。ロシア政府はシリア介入の大義にISISの壊滅を掲げたが、ISISの掃討作戦が上手くいけばいくほど、かえってISISの戦闘員が逆流し、チェチェンの不安定な情勢に拍車をかける恐れがある。果たしてロシアはそんなリスクを冒しても、ISISを本気で壊滅させるつもりだろうか。

【参考記事】ISISが中国にテロ予告

16年は前年に比べ、チェチェンの武装独立闘争に巻き込まれた負傷者が43%、死亡者は93%増加し、銃撃事件も倍増した。今年1月9日~16日にかけて、チェチェンで近年最大規模の対テロ作戦が実施されたのも、そうした背景がある。作戦ではISISと関連した60人の戦闘員を逮捕し、4人を殺害した。ロシア国家親衛隊も2人の犠牲者を出した。チェチェンのラムザン・カディロフ首長は、同国南部シャリ地区出身でシリアに潜伏する男がチェチェンの地下組織を操り、ISIS戦闘員の勧誘も行っていると述べた。

最大の戦闘員供給国

チェチェンから国外に渡航した戦闘員の数は、16年に大きく減少した。チェチェン内務省の情報では、同年にシリアのテロ組織に加わった戦闘員が19人まで落ち込んだ。年間で数百人が渡航したとされる13~15年に比べると、大幅な減少だ。戦闘員の勧誘が下火になった要因について、当局は予防措置や摘発が成功した証だと主張する。だが実際は、シリアとイラクでISISの支配地域や勢力が縮小したからだ。

【参考記事】モスル西部奪回作戦、イラク軍は地獄の市街戦へ

ロシアのプーチン大統領は2月23日、シリアで戦闘に参加するロシア人は約4000人いると述べた。ロシアは世界で3番目に多くの戦闘員をシリアやイラクの過激派組織に送り出し(1番と2番はシリアとイラクだ)、ロシア連邦の中ではチェチェンがISISへの最大の外国人戦闘員の補充に最も貢献した。

ロシア政府は過去に「チェチェンのテロは敗北した」など疑わしい見解を示したが、テロが収まったように見えたのは、チェチェンからの戦闘員流出を抜きにしては語れない。、シリア内戦が始まって以降、カフカス地方の地下組織の活動は半減した。治安当局や専門家、人権活動家、地域の住民もその事実を認める。つまり、チェチェンの武装勢力が国外のテロ活動に従事してくれれば、ロシア国内の治安問題が解消するわけだ。

【参考記事】アレッポに蘇るチェチェンの悲劇

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ドイツ失業率、1月6.2%に上昇 景気低迷が雇用に

ワールド

ミャンマー軍事政権、非常事態宣言を延長 「総選挙の

ワールド

焦点:トランプ氏が望む利下げ、米国以外で実現 FR

ビジネス

12月住宅着工戸数は前年比マイナス2.5%、8カ月
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ革命
特集:トランプ革命
2025年2月 4日号(1/28発売)

大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 4
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 5
    東京23区内でも所得格差と学力格差の相関関係は明らか
  • 6
    ピークアウトする中国経済...「借金取り」に転じた「…
  • 7
    「やっぱりかわいい」10年ぶり復帰のキャメロン・デ…
  • 8
    フジテレビ局員の「公益通報」だったのか...スポーツ…
  • 9
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 10
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果が異なる【最新研究】
  • 4
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 5
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 6
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 7
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 8
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 9
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 10
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 9
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 10
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中