身近な「サイコパス」から身を守るための知識
後者は、危険な存在ではあるものの、ためらいなく犯罪をおかしてしまうタイプなので悪事が発覚しやすい(捕まりやすい)のが特徴。しかし問題は、監獄ではなく、私たちの周囲にいる「勝ち組サイコパス」だという。彼らは他人をうまく利用して生き延び、容易にはその本性を見せないからである。
被害者からすればたまったものではないが、脳科学的な意味において、サイコパスの全貌が明らかになるまでには、まだまだ長い時間がかかるだろうと著者は記している。しかし現実に、サイコパスは100人に1人という、決して少なくはない社会の成員なのである。つまり私たちは、なんらかのかたちで周囲のどこかに潜んでいるであろうサイコパスと共存していかなければならないということになる。
アメリカ・ルイジアナ州立大学法科大学院教授のケン・リーヴィは、サイコパスに刑事責任を科すべきか否かを問うています。サイコパスは理性的には善悪の区別がつくのに、情動のレベルでは犯罪行為が道徳的に間違いであることがわからないからです。罰金や懲役といった刑罰が、悪事や過激な行動をセーブする役割を果たさないのであれば、それを科すことの意味もまた、問い直されなければなりません。
「反省できない人もいる」「罰をおそれない人もいる」という事実を、人はなかなか認めることができません。しかし、これは事実です。そして、罰をおそれない人間からすれば、反社会的行為を抑制するために作られた社会制度やルールは、ほとんど無意味です。
別の手段によってサイコパスの犯罪を抑制・予防する方向へ、発想を転換しなければなりません。(229~230ページより)
サイコパスの特徴は、どことなく先日ご紹介した「クラッシャー上司」に通じるものがあるような気もする。しかし、そうはいっても現実的に「どうすべきか」についての明確な答えが見出せないのである。
だとすれば、著者が本書で主張しているように、「あいつは遺伝的に危険だ」と機械的に排除するような風潮が高まることは、それ自体が極めて危険な行為だ。つまるところ、少なくとも現時点ではなんらかの形で彼らと共存していくしかないわけだが、だからこそ我々ひとりひとりが今後も考えていくべきことは多そうだ。
ところで本書を通じてサイコパスのことを知ると、多くの人が頭に思い浮かべるであろう人物のひとりがトランプ米大統領ではないだろうか。このことについて知りたいのであれば、著者が『文藝春秋』3月号に寄稿している「トランプはサイコパスである」を併せて読んでみることをお勧めする。こちらも、とても説得力のある内容になっている。
[筆者]
印南敦史
1962年生まれ。東京都出身。作家、書評家。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。現在は他に、「ライフハッカー[日本版]」「Suzie」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、多方面で活躍中。2月26日に新刊『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)を上梓。