最新記事

アメリカ流「餃子の作り方」に物申す⁉

2017年2月26日(日)17時11分
小暮聡子(ニューヨーク支局)

Food Network-Facebookより

<食専門の人気テレビ局がFacebookに投稿した「餃子の作り方」動画が、あまりにもヒドい! 案の定コメント欄は炎上しているが......>

最近、日本では「餃子ブーム」が起きていると聞く。一方、和食人気に沸くここニューヨークでは「日本の餃子」は今もスシやラーメンのような市民権を獲得しておらず、日系ラーメン店のサイドメニューか、IZAKAYA(居酒屋)にある一皿という扱いだ。ニューヨーカーにとって、餃子は小籠包を含む「ダンプリング」カテゴリーの一種であり、まだまだ中華料理なのだろう。

餃子の街・宇都宮出身の私としては寂しい限り。何とかして餃子を「和食」として認知させたいと意気込んでいたところ、先日驚くべきニュースが飛び込んできた。

朝起きてFacebookを開くと、料理番組でアメリカ人女性が「餃子の作り方」を教えている。アメリカ人も餃子を作るようになったのか、と驚いたのも束の間、観ていてギョッとした。「ポーク・ダンプリング」として紹介されているのは、今まで見たこともない餃子だったからだ。

動画を提供しているのは、アメリカ版『料理の鉄人』を放送したこともある食専門の人気テレビ局「フード・ネットワーク」。真っ赤なマニキュアをした女性がキャベツや白菜、ニラを入れない代わりに細ネギを千切りにして炒め、豚挽肉にまさかの卵を投入。オイスターソースではなく甘味噌である海鮮醤を垂らしている......。この動画が、アップされてから1日で200万回以上も再生されていた。

FacebookやTwitterなどのソーシャルメディアで「フェイクニュース」が拡散し、受け手それぞれに「ファクトチェック(事実確認)」をする姿勢が求められるなか、この餃子動画に思わず「フェイク餃子に気を付けて!」と言いたくなった。

【参考記事】ネットに広がる「フェイク・ニュース」― 嘘と真実の見分け方とは

人々の情報ソースとして、ここ数年で特に成長しているのがソーシャルメディア上に流れる「動画」だが、そのうち動物と料理を取り上げたものは多くのオーディエンスを獲得するキラーコンテンツの代表格。Facebookの動画再生回数は1日に80億回を超えるというから、この餃子動画も世界中に拡散されているに違いない。

フード・ネットワーク局にフェイクニュースの意図はないにしても、これを餃子と紹介するのはいかがなものか――。そう思っていたところ、案の定Facebookのコメント欄が炎上していた。

中国系とみられる人たちからの批判的なコメントが多いなか、なかには「これは彼女流のポーク・ダンプリングの作り方だ。これが正真正銘の中華ダンプリングとは言っていない。怒るほどのことではない」といったコメントも。

確かに、ネット上にこれだけ「我流」レシピが氾濫しているのを見ると、全ての人が「正統なレシピ」を求めているとは限らないし、そもそもアレンジしたらフェイクなのか、という疑問もある。「味の好みは人それぞれだ。彼女は彼女のレシピを使っただけで、それを美味しいと思うのであればいいじゃないか」というコメントも腑に落ちた。料理レシピに限っては、「フェイク」という概念は当てはまらないということなのか。

日中「餃子」戦争の勃発に備えて

ニューヨークに来たばかりの頃はおよそ「和食」とは呼びたくない代物を出す「ジャパニーズレストラン」に目くじらを立てていたこともあったが、そうした和食を美味しいと慣れ親しんだ人たちが、いつか「本場の和食を食べたい」と日本を目指してくれればいいのかもしれない。

【参考記事】インチキ和食屋に感謝せよ

最近もイタリア系アメリカ人から「ニューヨークはピザが有名だが、あんなものはピザではない」と聞いて笑ったのだが、一方でイタリアには「本場のピザ」があるという言い方はできたとしても、これは「本物」のピザ、こちらは「偽物」という線引きは難しいだろう。

それを言ってしまうと、日本で食べるピザやニューヨークのデリでサンドイッチのように売られているスシなどはすべて偽物になってしまう。もっと言えば、本場の味を追求できるかどうかは場所に限らず、店であれ家庭であれ、作り手の腕次第だ。

アメリカ人の間で餃子ブームが起きたとき、彼らが「本場」として目指すのは中国なのか日本なのか。今はアメリカ流の餃子に物申すよりも、餃子戦争が勃発したときに備えて日本の餃子の魅力を伝えるほうに専念したほうがいいのかもしれない。

先日、ニューヨークで大人気の日本人シェフ・萩原好司さん(居酒屋「六ツ木」料理長で、専門は中華料理)に絶品餃子の作り方を伝授してもらったので、次のページで紹介します。餃子好きの皆さん、外国人に美味しい餃子をたらふく振舞って、「本場は日本だ」と言い張りましょう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

サムスン、第1四半期のAI半導体低迷を警告 米の対

ワールド

ガザ検問所に米退役軍人配置へ、イスラエル・アラブ諸

ワールド

米レーガン空港、ヘリとのニアミス事案頻発 80年代

ビジネス

コマツ、今吉専務が社長就任へ 小川社長は会長に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ革命
特集:トランプ革命
2025年2月 4日号(1/28発売)

大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 4
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 5
    東京23区内でも所得格差と学力格差の相関関係は明らか
  • 6
    ピークアウトする中国経済...「借金取り」に転じた「…
  • 7
    「やっぱりかわいい」10年ぶり復帰のキャメロン・デ…
  • 8
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 9
    空港で「もう一人の自分」が目の前を歩いている? …
  • 10
    フジテレビ局員の「公益通報」だったのか...スポーツ…
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果が異なる【最新研究】
  • 4
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 5
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 6
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 7
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 8
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 9
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 10
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀…
  • 5
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 9
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 10
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中