最新記事

イギリス社会

ブレグジットの影で進んでいた「孤独」の健康被害。英国で委員会発足

2017年2月7日(火)15時30分
松丸さとみ

Luke MacGregor-REUTERS

<イギリスで「孤独」による健康への悪影響が問題になっている。国を挙げて「孤独」減少に取り組むために委員会が発足。近年の緊縮財政で公共サービスが利用しずらくなったことも一因とされる>

「孤独は健康に害」と聞くと、寂しさなどに起因する心の健康状態を思い浮かべるところだが、実は心臓疾患や高血圧との関連も指摘されている。孤独感を抱く人が多い現在、公衆衛生上の問題として孤独に取り組むべきだとする専門家もいる。英国議会では先ごろ、国を挙げて孤独減少に取り組むために委員会が発足した。

孤独に対するジョー・コックス委員会

英国で発足したのは「The Jo Cox Commission on Loneliness」(孤独に対するジョー・コックス委員会)だ。国民の5人に1人が孤独に苛まれているという英国で、2017年を通じて、対話を推奨するなどして孤独の軽減を目指すという。

ジョー・コックスと言えば昨年6月、欧州連合(EU)からの離脱の可否を問う国民投票に向けて、離脱派と残留派の議員が熱のこもった遊説を行うなか、離脱派の支持者に殺害された労働党の下院議員だ。この若き女性議員は当時、孤独に苦しむ人たちを救おうと同委員会を立ち上げるべく奔走していたが、志半ばで命を絶たれてしまった。

【参考記事】弱者のために生き、憎悪に殺されたジョー・コックス

今回発足した「ジョー・コックス委員会」は、そんなコックス議員に因んで名づけられたのだ。Age UKや英国赤十字社など13の慈善事業団体と協力して、高齢者、母親になりたての女性、子供など、支援を必要とする人々との対話などの機会を設ける。さらに、こうした活動から分かったことを各慈善事業団体が委員会に提供。委員会が2017年の終わりにそれを声明文としてまとめ、孤独の解決策を模索するよう政府に要請するという。

予算削減で憩いの場がなくなり、孤独においやられた

「ジョー・コックス委員会」を支援する慈善団体である英国赤十字社と英国生活協同組合が共同で行った調査から、英国では900万人以上、国民の約5人に1人が「常に」または「たいてい」孤独を感じていることが分かった。しかしこのうち3分の2は、寂しいということを他の人に打ち明けることは決してないという。

調査によると、孤独の背景には、生活環境の変化や健康状態の悪化、そして近しい人との死別などがある。さらに、公共サービスの利用が容易でないこと、公的支援が受けづらいこと、憩いの場がなくなってしまったこと、交通インフラが不足していることなどで、さらに孤独に追いやられるという。

地域社会に根付いた行政機関である英国のコミュニティ・地方自治省はここ数年、大幅な予算削減を強いられている。BBCは2015年、2010/2011年から2015/2016年の5年間での予算変動を各省ごとに比較した記事を掲載。最も予算を削減されたのは、51%減となったコミュニティ・地方自治省だったと伝えていた。

spending_fig2.jpg

Institute for Fiscal Studiesより

.

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ミャンマー地震の死者1000人超に、タイの崩壊ビル

ビジネス

中国・EUの通商トップが会談、公平な競争条件を協議

ワールド

焦点:大混乱に陥る米国の漁業、トランプ政権が割当量

ワールド

トランプ氏、相互関税巡り交渉用意 医薬品への関税も
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジェールからも追放される中国人
  • 3
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中国・河南省で見つかった「異常な」埋葬文化
  • 4
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 5
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 6
    なぜANAは、手荷物カウンターの待ち時間を最大50分か…
  • 7
    不屈のウクライナ、失ったクルスクの代わりにベルゴ…
  • 8
    アルコール依存症を克服して「人生がカラフルなこと…
  • 9
    最古の記録が大幅更新? アルファベットの起源に驚…
  • 10
    最悪失明...目の健康を脅かす「2型糖尿病」が若い世…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えない「よい炭水化物」とは?
  • 4
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 5
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 7
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 8
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 9
    大谷登場でざわつく報道陣...山本由伸の会見で大谷翔…
  • 10
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中