インドネシア民主主義の試金石となるか 注目のジャカルタ州知事選が15日投票
アホック候補にはジョコ・ウィドド大統領の出身母体でもある与党「闘争民主党(PDIP)」などが支持を表明しているが、政党色は選挙戦終盤まで控え目だった。PDIPの党首は国民から独立の英雄として尊敬を集めるスカルノ初代大統領の長女のメガワティ・スカルノプトリ元大統領である。アホック候補は「私は闘争民主党の人間ではないがメガワティさんの信奉者」であると公言するなど脱政党色を前面に出してきた。しかし選挙戦で宗教や人種、出身地域などインドネシアでは「触れてはならないタブー」とされる「サラ(SARAH)」にまで反アホック運動が「土足で踏み込んできたこと」に危機感を抱いたメガワティ前大統領は1月23日の自身の誕生日を祝う会や2月4日のアホック候補決起集会などで「インドネシアの統一、多様性、寛容の精神を守るため」としてアホック氏支持を堂々と公言するようになった。
選挙世論調査はあてにならない
各種世論調査ではアホック候補がリードし、アニス候補が追いかけ、アグス候補が苦戦する結果がでているが、過半数を超える支持はどの候補も厳しい情勢となっている。経営者の支持政党で露骨に調査結果、報道姿勢が特定候補に偏ると指摘されるテレビの報道番組、調査結果でも「3候補拮抗」が伝えらえている。しかし選挙に関する世論調査の結果や報道内容がなかなか実態を反映しなくなっていることは先の米大統領選でのトランプ候補とクリントン候補の例でも実証されている。
予想以上に「隠れアホック支持者」がいる、と筆者は予想、いや期待をしているのだが。実際は果たしてどうなるだろうか。
アホック氏とは直接の面識はないもののアホック氏を熱烈に支持する数多いジャカルタ市民でイスラム教徒の友人たち、そしてメガワティ前大統領の側近たちや懇意の記者たちの冷静な分析結果を聴きながら、今回の選挙でジャカルタ市民が首都の住民として成熟した民主主義、宗教による差別を許さない寛容な精神などに基づく懸命な判断を下すことにこの国の新たな一歩を期待したいと心から思っている。
[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など