米ハイテク業界がトランプの移民政策に反旗
従業員187人が入国禁止令の影響を受けるグーグルのピチャイCEO Beck Diefenbach-REUTERS
<トランプ政権の強権的な移民政策が、アメリカで最も裕福で最も頭脳明晰なトラの尾を踏んだ。シリコンバレーのハイテク業界だ。グーグルやアップルの逆襲は功を奏すか、それともカリフォルニアごと独立するのか>
移民や難民の入国を一時禁止するなどとしたドナルド・トランプの大統領命令は、世界中の怒りを買っている。著名人や慈善団体はもちろん、民主党と共和党、外国政府(入国禁止の対象となり報復すると誓ったイラン外務省)や国連、世界の指導者たち(メルケル独首相、メイ英首相など)など、波紋は広がる一方だ。身内の米政府内でも、国務省職員100名ほどが抗議文書に署名し、サリー・イェーツ米司法長官代行は入国禁止令の合法性を疑問視して反対。驚いたことに、イェーツは「裏切り者」(ホワイトハウス)としてあっという間に解任された。
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こうしたなかで、具体的な抗議や対抗策への取り組みという点では、シリコンバレーがいちばん進んでいるといえるだろう。
アップルのティム・クックCEOやテスラ創業者のイーロン・マスクも、どこかでトランプと共通の土台が見つけられるのではないかと期待していた。トランプも、世界の頭脳が集中するシリコンバレーを称賛したことがある。選挙地盤や既成権力の助けを借りずにトランプが当選できたのも、シリコンバレーが発明したツイッターの力が大きかった。
だが、見せかけの同盟は崩れ去った。トランプがすべての難民とイスラム教徒が多数派の7カ国からの渡航者の入国を一時、あるいは無期限に禁止する大統領令を出し、直ちに実行に移したからだ。
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シリコンバレーの取り組みが早かったのは驚くにはあたらない。
シリコンバレーが位置するカリフォルニア州の不法移民の人口は全米最大で、昨年は他のどの州よりも多くのシリア難民を受け入れている。今回の大統領令で無期限に入国禁止とされたシリア難民だ。トランプ当選以降は、カリフォルニア州からの独立を訴える「カレグジット」運動が盛り上がっているほど移民が多い。シリコンバレーの従業員もかなりの部分は、トランプの移民入国禁止令の影響を受ける移民や難民の出身者なのだ。
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以下は、個別企業の対応だ。
■グーグル
このニュースに最初に反応した大企業は、検索エンジン大手のグーグルだった。スンダー・ピチャイ最高経営責任者(CEO)は社内メモを公開し、同社従業員のうち最低でも187人がこの大統領令の直接的な影響を受けることを明らかにした。
グーグルは声明で、この大統領命令は「優れた人材をアメリカに呼び込むうえでの障害となる」と主張。「われわれは今後も、アメリカ政府ほかすべての指導者たちに対し、これらの問題に関する意見を訴えていくつもりだ」と付け加えた。
今回の入国制限から従業員を守るために、グーグルは約100人の従業員を海外から呼び戻した。