ナイジェリアを「金で買った」中国――「一つの中国」原則のため

2017年1月16日(月)11時46分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

 これまで中国の顔色を窺っていた日本の外務省としては非常に画期的なことで、おそらくトランプ陣営の中における対中政策の傾向を感知してのことだと推測される。つまり、トランプ政権の対中政策が「一つの中国」原則にも疑義を挟む可能性を秘めている何よりの証拠だろう。

 1月13日、トランプ次期大統領はアメリカのウォール・ストリート・ジャーナルの取材に対し「もし北京が為替や貿易問題で譲歩しなければ、アメリカは"一つの中国"を見直さなければならなくなる」と語った。BBS中文網などが「トランプ:"一つの中国"原則を守るには北京の譲歩が必要」と伝えた。

 昨年12月11日に米フォックス・ニュースのインタビューに対して述べた「通商を含めて色々なことについて中国と取り引きして合意しない限り、なぜ"一つの中国"政策に縛られなきゃならないのか分からない」という同氏の回答と比べると、やや強硬感が和らいだ感はある。しかし、トランプ次期米大統領はホワイトハウス内に貿易政策を担当する「国家通商会議」を新設し、トップに対中強硬派で知られるピーター・ナバロ氏を起用すると決定しているので、「一つの中国」原則に対する懐疑論は収まらないだろう。

 そもそも北京政府が主張する「一つの中国」原則的概念を世界に広めてしまったのはニクソン元大統領とキッシンジャー元国務長官で、ニクソン氏が2度目の大統領選に勝とうとした個人的欲望から前のめりになった結果だ。日本の頭越しにキッシンジャー氏が訪中したことに驚いた日本が、あわててアメリカに追随した。日米が「一つの中国」を認めて(あるいは認識すると認めて)しまったことで、他の国が日米にならたったため、あたかも1972年以降(あるいは米中国交正常化が調印された1979年以降)の国際秩序を形成してしまった「不動の原則」のように見えるかもしれない。

 そしてその結果、中国を強大化させてしまい、今では中国の覇権に苦しめられているというのだから、日米ともに反省しなければならないだろう。日米が強大化させてしまった中国が、それゆえに日米に脅威を与え、戦争の危険性さえ招くとすれば、本末転倒。

 日本人は「中国共産党が如何にして強大化したのか」という歴史の真相を学ぼうとしないために、今もなお同じことを繰り返しているのである。思考停止が自国民に不幸をもたらすことにメスを入れたのがトランプ発言だ。いろいろ問題もあり、不確定要素も多い人物ではあるが、この発言にはアメリカ国民の感覚も込められているのではないかと、筆者には思われる。アメリカの中国研究者やシンクタンクとの接触により感じ取った実感だ。

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