最新記事

アフリカ

コンゴのデモ弾圧は、数百万人が死んだ内戦再燃の前触れだ

2016年12月22日(木)16時56分
メラニー・グヴィ

首都キンシャサでカビラ大統領のポスターを引きずり降ろそうとするデモ(9月) Kenny Katombe-REUTERS

<サブサハラの他の独裁者たちと違い、コンゴのカビラ大統領はこの大きな国の支配者から程遠い。抗議デモを蹴散らしても、いずれ武装勢力と戦うことになる>

 真夜中の12時近く、コンゴの首都で河口都市のキンシャサでは、群衆が薄暗い玄関先に立って笛を吹き始めた。1時間も経つとデモの参加者は数千人規模に膨らみ、鍋や皿をたたきながら抗議する人々もいた。憲法で2期までと定められている任期が切れてもなお居座り続ける、ジョセフ・カビラ大統領に立ち向かうための市民的不服従だ。

 政治的なマヒ状態が長引くなか、サブサハラ(アフリカのサハラ砂漠以南)で最大面積を誇るコンゴは20日、危険と不確実性を孕む新時代に突入した。2001年に大統領に就任したカビラは、建国以来初めてとなる平和的な政権交代が可能であることを自ら示すため、2期満了をもって退任するはずだった。だがそれどころか、旧ザイールで独裁者と呼ばれたモブツ・セセ・セコを打倒しコンゴを独立に導いたローラン・カビラ前大統領の跡を継いだ45歳の息子は、父親が倒した独裁者と同じ側に立とうとしている。カビラ政権は、有権者登録名簿を更新するのに少なくとも17年まで時間がかかると主張し、年内の大統領選の実施を拒んだ。裁判所は9月、大統領選が実施されるまでカビラは無期限で大統領職に留まれるとする判決を言い渡した。

【参考記事】コンゴを引き裂く2つの殺戮部隊

抗議デモに実力行使

 カビラが権力の座に居座る根拠について、わずかでも疑念があったとすれば、それらはここ数日であっさり消し去られた。国中のあらゆる都市に警察や治安部隊が配備され、前例のない実力行使に及んでいる。野党勢力はカビラの任期が切れる12月19日に大規模な抗議集会をやると、数か月前から政権側を脅してきた。だがデモの禁止や道路の封鎖、市民を武力で威嚇する軍隊の存在に押された結果、当日わざわざデモに参加した人々は数えるほどだった。キンシャサ市内にある大学の学生は、荷台いっぱいに兵士が乗ったトラックに阻まれ、キャンパスの外に出られなかった。東部の都市ゴマでは、平和的なデモ隊が即座に鎮圧された。

【参考記事】コンゴ「武器としての性暴力」と闘う医師に学ぶこと
【参考記事】ノーベル平和賞以上の価値があるコンゴ人のデニ・ムクウェゲ医師 ―性的テロリズムの影響力とコンゴ東部の実態―

 だがこうなったのは、単にカビラが力ずくで反対派を抑え込んだからではない。反政府派の野党勢力が連立した「ラセンブレメント」が、大統領の任期切れ前日の12月18日に支持者に向けた明確なメッセージを打ち出すのに失敗し、自らの弱体化を招いたのも災いした。「私たちは今でもエティエンヌ・チセケディがラジオで語りかけるのを待っている」と、野党第一党の党首であるチセケディに言及したのは、法学部卒で無職のパシー・カロンジだ。「今日、市内の通りは静かだ。私たちは指示を待っていたが、いつまでたっても来なかった」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

再送-EQT、日本の不動産部門責任者にKJRM幹部

ビジネス

独プラント・設備受注、2月は前年比+8% 予想外の

ビジネス

イオン、米国産と国産のブレンド米を販売へ 10日ご

ワールド

中国、EU産ブランデーの反ダンピング調査を再延長
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 8
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中