最新記事

情報セキュリティ

インターポールでサイバー犯罪を追う、日本屈指のハッカー

2016年12月7日(水)18時10分
山田敏弘(ジャーナリスト)

interpol03.jpg

安平俊伸氏は国際会議や連携企画を取りまとめる職務についている(筆者撮影)

 IGCIには、民間として捜査に携わっている日本人もいる。東京に本部を置く、サイバーディフェンス研究所の福森大喜もその1人だ。

 福森は、もともと日本屈指のハッカーであり、世界のハッキング大会などでその名を轟かせていた人物である。近年はコンサルティング業務などに携わっていたが、そのサイバー能力を買われてIGCIに所属することになった。

 福森はサイバー攻撃の手口や使われているマルウェアやテクノロジーを解析し、捜査を進める。「日本にいた頃、サイバー攻撃を受けた企業に行って調査を進めていくと、運がいい場合には、ほぼ間違いないというレベルで攻撃者にたどり着いたりします。でもそれ以上は何もできないというもどかしさがあった」と、福森は言う。「ここで捜査して、実際に国をまたいでサイバー攻撃を行なっていた犯人の逮捕にまでつながったケースもある。やっぱりやりがいはあります」

 まさにサイバー空間にあるバーチャルな「犯罪現場」で捜査に奔走しているのだ。ここでの民間との連携が、後に日本でも生かされることになるだろう。

【参考記事】米で頻発するサイバー攻撃は大規模攻撃の腕試しだ

 官民の協力以外で、インターポールに属する日本にとって最大の財産となるのは、人脈だ。現在、IGCIには世界各国の警察組織から130人ほどが集結している。彼らはいずれも自国でそれなりに重要な役割を担っている捜査官たちで、それぞれが出身国の警察機関などに戻った後、サイバー捜査の分野で働いていくことになる。

 安平は、「将来的にはインターポールの組織を通さなくとも、ここで広がった人脈で直接、技術協力や捜査などの情報をやりとりできる可能性があります。世界の警察ともつながり、事件捜査などにも生きることになる」と語る。

 確かにそうした世界との個人レベルの連携は国にとっても財産になる。

 では逆に、世界各国で第一線級の警察関係者たちが集まるIGCIでは、日常業務でも、各国の国民性や警察当局の扱いの違いなどによって混乱が生じることはないのだろうか。これはあまり知られていないが、インターポールやIGCIは、法の執行を行うことはない。つまり逮捕権を持たないのだ。その点は日本の警察庁と同じで、警視庁や道府県警察のような法執行といった業務は行わない。

 山崎は、「インターポール自身が手を出せないのはみんな分かっているのですが、逆に各国から来ている同僚たちは出身国で法執行の権限を持っていたので、IGCIで歯がゆさを感じているというような話は耳にします」と言う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口の中」を公開した女性、命を救ったものとは?
  • 3
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 8
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 8
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中