民族大虐殺迫る南スーダン。国連安保理の武器禁輸措置決議になぜ日本は消極的なのか
日本は今こそ、安保理で紛争解決のための強い姿勢に協力すべき
今そこにあるジェノサイドの危機、という国際認識が日本国内には十分に伝わっていない。そして、日本は、危機の拡大・深刻化を防ぐという点で果たして正しい態度をとっているのか。
ひとたび、PKOが派遣されると、自国部隊は人質のようになる。紛争当事国政府を刺激するような外交上の投票行動は取りにくくなる。
しかし、その結果として、紛争を防止・拡大しないための国際社会の行動を無駄にしてしまう役割を果たすこととなったら、結局本末転倒ではないだろうか。
NGOでもよく議論になるのは、プロジェクトの成功を優先するのか、ミッションの達成を優先するのか、ということである。
プロジェクトの成功(たとえば自衛隊派遣の成功)はミッション(南スーダンの和平と安全の回復)の実現のためにこそあるのであり、短期的なプロジェクトの成功に固執して、大目標であるミッションにマイナスとなる行動をすべきでないというのは鉄則である。
日本のNGO団体の多くはそもそも新任務での南スーダンへの派遣に反対してきた。国内的な憲法上の議論もあり、日本のNGOを駆けつけ警護等で危険にさらすリスクがあるうえ、果たして南スーダンの平和に対する貢献としてふさわしいのか、そして紛争が激化したら果たしてどうするのか、という疑問があるからである。
しかし、部隊を派遣しているがゆえに、強力な安保理の措置を求めることを躊躇し、虐殺防止への重要な役割が果たせないこととなければ、それこそ本末転倒である。結局のところ、南スーダンの平和でなく、自己満足のための派遣だと批判されることになるのではないか。
日本政府は、自国内の政治的アジェンダや国内政治に固執することなく、ジェノサイド回避のために国際社会・安保理において、キーとなる役割を適切に果たすべきである。そして、紛争がジュバから周辺にまで拡大している今、もし部隊において危険が及ぶリスクがあるなら撤退も検討すべきである。
国連安保理が今行うべきなのは、
1)第一に武器の禁輸のための実効性ある措置を安保理で決議することである。
2)第二に、紛争のリーダーに対する資金凍結などのターゲット・サンクションを決議することである。
ハリウッドスターのジョージ・クルーニーらが創設した監視団体The Sentryは今年9月に記者会見を開いて、"War crimes shouldn't pay"という調査報告書を公表し、紛争の背景に、政府側、反政府側の経済的利益拡大があることを国際社会に訴えた。
内戦を拡大するものは経済的にダメージを与え、紛争のインセンティブを奪う必要がある。そのために、紛争のリーダーの資産凍結等のターゲット・サンクションは安保理決議にぜひ盛り込まれるべきである。
「来週、再来週において日本が安保理でどのような行動をするかは南スーダン情勢に直結する」
ニューヨークのとあるロビイストは私に訴えた。
安保理のパワーバランスのなかで、日本が果たす役割が重く問われることがあるが、安保理の現在の構成を見れば、この問題において日本の果たすべき役割が大きいことはうなづけるだろう。
遅きに失したとはいえ南スーダンの虐殺を止め、紛争拡大を止めるための役割を果たすことができるのか、戦闘シーズンが到来しつつある今、日本政府の外交姿勢が問われている。
参考・
※ Exclusive
U.S. Push to Halt Genocide in South Sudan Unravels at United Nations
The Security Council is balking at an arms embargo that is too little, too late for the world's youngest nation.
(Foreign Policy)
※ NGO非戦ネット声明
【声明】「南スーダンにおける自衛隊への新任務付与を見合わせ、 武力によらない平和貢献を求める」
[プロフィール]
伊藤和子
弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ事務局長
1994年に弁護士登録。女性、子どもの権利、えん罪事件など、人権問題に関わって活動。米国留学後の2006年、国境を越えて世界の人権問題に取り組む日本発の国際人権NGO・ヒューマンライツ・ナウを立ち上げ、事務局長として国内外で現在進行形の人権侵害の解決を求めて活動中。同時に、弁護士として、女性をはじめ、権利の実現を求める市民の法的問題の解決のために日々活動している。ミモザの森法律事務所(東京)代表。
Twitter:KazukoIto_Law Facebook:ito.kazuko Official site:人権は国境を越えて-弁護士 伊藤和子のダイアリー
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伊藤和子
弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ事務局長
1994年に弁護士登録。女性、子どもの権利、えん罪事件など、人権問題に関わって活動。米国留学後の2006年、国境を越えて世界の人権問題に取り組む日本発の国際人権NGO・ヒューマンライツ・ナウを立ち上げ、事務局長として国内外で現在進行形の人権侵害の解決を求めて活動中。同時に、弁護士として、女性をはじめ、権利の実現を求める市民の法的問題の解決のために日々活動している。ミモザの森法律事務所(東京)代表。
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※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。