最新記事

日本社会

出生力に関してモデルとなる自治体はあるか? 東海モデルと南九州モデル

2016年11月29日(火)16時40分
筒井淳也(立命館大学産業社会学部教授)

SeanPavonePhoto-iStock

<どういった自治体が出生力の観点から「優れて」いるのか。細かくデータを見て行くと、出生力の高い自治体の特徴が浮かび上がった>

はじめに

 先日の記事では、出生力やその関連数値については都道府県のみならず、各都道府県内の自治体の水準でもかなりの多様性があることを示しました。

【参考記事】自治体ごとの出生力の多様性:出生数・出生率のデータを細かく見てみる

 ではどういった自治体が出生力の観点から「優れて」いるのでしょうか。(データは先日の記事と同じく2010年の国勢調査をもとに、人口動態統計その他のデータを用いています。)

出生力が高い自治体

 まず合計特殊出生率ですが、安倍政権が当面の目的としている1.8以上の数値を持っている自治体は110個あり、これは全自治体数1,893のなかの5.8%を占めます。とはいえ、このなかには人口規模が極めて小さい自治体が含まれていますので、ここでは試みに15-49歳の女性人口が2万人以上の自治体のみをリストアップしてみましょう。

1129tutui1.jpg

表1 出生率1.7、生産年齢女性2万人以上の自治体のリスト

 この顔ぶれをみていて気づくのは、これらの自治体はいくつかのカテゴリーに分けることができる、ということです。多少恣意的ですが、表に書き込んでいます。ここでは、東海圏(愛知県の南部と浜松)、瀬戸内海沿岸の中規模都市、同じく西九州と南九州(沖縄含む)の中規模都市、その他に分けています。(ちなみに、政府が三世代同居政策を推し進める際に念頭に置いている福井の自治体は上記定義ではリストに入りません。)

 さて、これらの都市の特徴とは何でしょうか。

出生力の高い自治体の特徴

 まずその他のうち大阪市鶴見区ですが、ファミリー向けマンションが多いなどの地理的条件が重なっている可能性がありますが、はっきりしたことはわかりません。

 「その他」2つの自治体と「西九州」2つの自治体を除くと、残りは「東海」「瀬戸内海沿岸」「南九州」のみに絞られてしまいます。ここから、出生力の高い自治体には一定の特徴があるのではないか、と推察できます。

 そこで、産業別の従業者比率を示したグラフ(図1)を見てみましょう。これは、各カテゴリーに属する自治体の平均値を示したものです。参考までに、全国と東京都のデータも書き込んでいます。すると、ひとつの特徴が浮かび上がってきます。

1129tutui2.jpg

図1 自治体カテゴリーごとの産業従業者比率

 まず東海圏ですが、圧倒的に製造業の従業者比率が高いことがわかります。トヨタ等の自動車産業が同地域に集中しているからでしょう。次に瀬戸内海沿岸ですが、やはり製造業の比率が高いです。さらに、医療・福祉従事者も多いことがわかります。南九州ですが、こちらも医療・福祉の従事者が全国平均よりも多いようです。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

焦点:大混乱に陥る米国の漁業、トランプ政権が割当量

ワールド

米加首脳が電話会談、トランプ氏「生産的」 カーニー

ワールド

鉱物協定巡る米の要求に変化、判断は時期尚早=ゼレン

ワールド

国際援助金減少で食糧難5800万人 国連世界食糧計
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジェールからも追放される中国人
  • 3
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中国・河南省で見つかった「異常な」埋葬文化
  • 4
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 5
    なぜANAは、手荷物カウンターの待ち時間を最大50分か…
  • 6
    不屈のウクライナ、失ったクルスクの代わりにベルゴ…
  • 7
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 8
    アルコール依存症を克服して「人生がカラフルなこと…
  • 9
    最悪失明...目の健康を脅かす「2型糖尿病」が若い世…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えない「よい炭水化物」とは?
  • 4
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 5
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 6
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 7
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 8
    大谷登場でざわつく報道陣...山本由伸の会見で大谷翔…
  • 9
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中