最新記事

日本社会

自治体ごとの出生力の多様性:出生数・出生率のデータを細かく見てみる

2016年11月28日(月)17時20分
筒井淳也(立命館大学産業社会学部教授)

y-studio-iStock

<出生率に都道府県ごとの地域格差があることはよく知られている。さらに、都道府県より細かい自治体ごとの出生数・出生率のデータを見てみると、各自治体の課題が異なってくることが見えてくる...>

都道府県ごとの多様性

 2005年に最低の1.26を記録し、その後はゆるやかな回復基調にある日本の合計特殊出生率ですが、出生数は相変わらず低下傾向にあります。これは、母体となる出産可能年齢の女性の数が減っていることが原因です。つまり、少子高齢化について考える際には、出生率のみならず出生数にも注目する必要があります。

 さらに、最近注目をあつめるようになったポイントとして、地域格差があります。出生率に都道府県ごとの地域格差があることはよく知られています。下の図で示したように、(多少古いのですが)2010年の都道府県別の出生数と出生率の数値をみると、どちらもかなりのばらつきを見せていることがわかります。

1128tutui1.jpg

図1 都道府県ごとの出生数と出生率

 東京都は、よく知られているように、最大の出生数を誇っていますが、出生率は最低です。逆に沖縄は出生率は高く、安倍政権が当面の目標としている1.8を超えているのですが、残念ながら出生数は少ないです。

 少子高齢化は、とりあえずは日本全体の問題です。というのも、少子高齢化の大きな問題のひとつに社会保障の維持可能性がありますが、その財源は年金を始めとして基本的に国レベルの再分配であるからです。

 ただ、地域の福祉・行政・公共サービスの維持を考える場合、どうしても地域に一定の生産年齢人口を確保することもまた大きな課題となります。そこでこの記事では、都道府県より細かい自治体ごとの出生数・出生率のより細かなデータをいくつか紹介し、いくつか知見を引き出したいと思います(データはいずれも2010年の国勢調査のものです)。

自治体の出生数と出生率

 下の図2(左)は、市町村(規模の大きな都市については区)を単位とした出生数と出生率のデータです。ほとんどの自治体はそもそも人口規模が小さいので、出生率が高い自治体も低い自治体も、出生数が0付近に固まっています。そこで、見やすくするために出生数を対数変換したものが右の図です。ただし、出生率が2.81と突出している鹿児島県伊仙町(徳之島の一つの町)は除いています。

1128tutui2.jpg

図2 市町村ごとの出生率と出生数

 では、各都道府県の自治体はこの中にどのように散らばっているのでしょうか。たとえば東京はどうでしょう。

1128tutui3.jpg

図3 東京都と静岡県の自治体の分布

 左側の図、赤い◯が東京都の自治体です。左上(出生数は多いが出生率は低い)に固まっていることがわかります。次に、なにかと全国の縮図として認識されることが多い静岡(右側)はどうでしょうか。今度は、比較的バランスよく散らばっていることがわかります。実は、ほとんどの県では、東京都のように数値が偏っておらず、どちらかといえば静岡と同じようにまんべんなく散らばっている傾向があります。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

日経平均は続伸、円安が支え 指数の方向感は乏しい

ビジネス

イオンが決算発表を31日に延期、イオンFSのベトナ

ワールド

タイ経済、下半期に減速へ 米関税で輸出に打撃=中銀

ビジネス

午後3時のドルは147円付近に上昇、2週間ぶり高値
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 4
    「ヒラリーに似すぎ」なトランプ像...ディズニー・ワ…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    犯罪者に狙われる家の「共通点」とは? 広域強盗事…
  • 7
    自由都市・香港から抗議の声が消えた...入港した中国…
  • 8
    人種から体型、言語まで...実は『ハリー・ポッター』…
  • 9
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 10
    「けしからん」の応酬が参政党躍進の主因に? 既成…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 3
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸せ映像に「それどころじゃない光景」が映り込んでしまう
  • 4
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 5
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 6
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 7
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 8
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、…
  • 9
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 10
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 7
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中