出生力に関してモデルとなる自治体はあるか? 東海モデルと南九州モデル
推測
先 日の記事の都道府県別の出生数・出生率のデータ(図1)からもわかりますが、愛知県、特に南部は出生率・出生数ともに比較的高い例外的な位置にあります。また、別途行った分析からも、一般的に製造業やインフラ業の比率が高い地域では出生率も高いことが示唆されています。これは推察ですが、これらの地域では1970〜80年代的な「男性稼ぎ手」家族が存続しており、男性に比較的安定した雇用を提供する体制が続いている可能性があります。
次に南九州ですが、こちらの特徴は医療・福祉従事者の多さです。また、ここでは示しませんが、実はこの地域は三世代同居家族の比率が少ないことが特徴です。ここから推測できることは、高齢者のケアを家族以外のケア労働者に委託することが多いのではないか、ということです。
これは仮説に過ぎず、これからのより詳細な検討次第ですが、出生力の高い自治体の特徴を以上のデータから二つ挙げることができます。
ひとつには従来型のタイプの男性稼ぎ手世帯を維持できているかどうかです。これを仮に東海モデルと呼びましょう。
以前、愛知県のあるテレビ局のディレクターの方から、「愛知や名古屋から若い女性が東京に流出するが、あえて地元に残る女性について考えたい」といった趣旨の番組出演依頼をいただいたことがあります。その際申し上げたのが、いろんなデータから、愛知は女性の流出が比較的少ない地域であり、おそらく製造業が安定した雇用を男性に提供し、女性が主婦あるいは主婦パートになるという旧来的なライフコースがまだ健在なのではないか、ということでした。今回のデータもこのことのひとつの裏付けになっているように思えます。
もう一つは南九州モデルと呼びましょう。女性が医療・福祉で有償労働に従事し、ケアを外部化した上で子育てをしている傾向がみてとれます。実際、鹿児島は、人口10万人あたりの看護師・准看護師の人数が1,652人と、都道府県でトップです(全国平均は1,030人。データ)。製造業比率は決して高くなく、所得水準も決して高くない地域で高い出生力があるのは、こういった女性の雇用状況が背景に存在する可能性があります。
おわりに
多少恣意的な基準で「出生力が高い」自治体を選んだ上でいろいろな推測をしてきましたが、もちろんこれからのさらなる検討の呼び水でしかありません。ただ、少なくとも政府が推してきた「福井モデル」のみでは、自治体レベルの高出生力を説明できないことには注目してもよいかと思います。
[筆者]
筒井淳也
立命館大学産業社会学部教授
家族社会学、計量社会学、女性労働研究。1970年福岡県生まれ。一橋大学社会学部、同大学院社会学研究科、博士(社会学)。著書に『仕事と家族』(中公新書、2015年)、『結婚と家族のこれから』(光文社新書、2016年)など。編著に『計量社会学入門』(世界思想社、2015年)、『Stataで計量経済学入門』(ミネルヴァ書房、2011年)など。official site:筒井研究室
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。