最新記事

ライフスタイル

全米一の「しくじり先生」が書いた不幸への対処法

2016年11月22日(火)18時40分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

yurok-iStock.

<流行りの表現を借りれば「しくじり先生」。アルコール依存やドラッグ依存に苦しんだアメリカの人気作家、オーガステン・バロウズが自己啓発書を書いた。「自分を憐れむには」「癒えないままで生きるには」「子供を先立たせるには」など、体験に裏打ちされた重みのあるバロウズ流アドバイスとは>

 父親はアルコール依存症、母親は統合失調症。12歳で保護者を失い、アルコール依存とドラッグ依存に苦しんだ末に、若き日々の特異な体験(年上男性との関係を含む......著者はゲイだ)を赤裸々に綴った回想録で一躍、時の人となる――。「まるで映画のような」という決まり文句が見事に当てはまるのが、オーガステン・バロウズの半生だ。

 実に3年にわたってニューヨーク・タイムズのベストセラーリストにラインクインした回想録「Running with Scissors」(邦訳『ハサミを持って突っ走る』バジリコ刊)は、もちろん映画化された。日本で劇場公開されなかったのは、興行的にうまくいかなかったからなのか、それとも内容的に日本人にはヘビーすぎると判断されたのか、それはわからない。

 いずれにせよバロウズは、アメリカで人気作家としての地位を確立し、その後も立て続けに新刊を発表。いくつかの作品はベストセラーの上位につけ、タイム誌やピープル誌で特集が組まれるほどの有名人になった。とくに、独特の"バロウズ語録"が多くのアメリカ人の心に響いているらしく、小説やミュージックビデオ、トーク番組などで頻繁に引用されているという。

だれにでも不幸は降りかかる

 そんな人物が自己啓発書を書いたら、どうなるか。前述のようなバロウズの背景を知ると、暗い過去を乗り越えて、身も心も素晴らしい好人物になった著者が、読む人に勇気を与え、鼓舞し、激励するような"名言"がちりばめられた本だろう、と想像する......ふつうは。

 だが、『これが答えだ!――人生の難題をことごとく乗り越える方法』(永井二菜訳、CCCメディアハウス)の目次に目を通した時点で、どうやらふつうではないらしいと気づく。

 6 自分を憐れむには
 8 失敗するには
 13 癒えないままで生きるには
 21 末長く不幸せに暮らすには

 これほどネガティブなハウツーが並んだ自己啓発書があるだろうか。もっとすごい項目もある。

 12 人生を終わらせるには
 26 子供を先立たせるには

 言うまでもなく、バロウズはこれらを積極的に勧めているわけではない。だが、どれも人生のなかで当然起こり得ることだ。人はだれでも失敗するし、いつまでも癒えない傷もあるし、毎年80万人以上が自ら命を絶っている(WHO推計)。そして、不幸にも子供に先立たれる親は数多くいる。

 だからこそ、目を背けるのではなく、あるいは「自分には絶対に起こらない」と根拠なく言い聞かせるのでもなく、いざこうした難題にぶつかったときにどうすべきなのかを知っておこうじゃないか。たいていの不幸はひととおり経験済みの俺が、その答えを教えてやるよ――というのが、この本のコンセプトだ。

 バロウズは、苦境をバネにして成功した人が言いがちな「あなたにもできる」とか「夢をあきらめるな」などといった綺麗事は決して言わない。それどころか、「夢をあきらめるな」と激励するのは(人によっては)いじめだ、とさえ言っている。だれもが見ようとしない真実を突き、あえて言おうとしない本音を堂々と言ってのける。

【参考記事】良い人生とは何か、ハーバード75年間の研究の成果/wildest dreams(無謀な夢)

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

イスラエル、ハマスが人質リスト公開するまで停戦開始

ワールド

韓国尹大統領に逮捕状発付、現職初 支持者らが裁判所

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 8
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 9
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 10
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中