トランプ新政権と水と油の政策方針 メルケル独首相に最大の試練
11月14日、米大統領選でのトランプ氏勝利は世界中の米同盟国に衝撃を与えたが、中でも最大の痛撃を感じているのはドイツだろう。写真はメルケル独首相。ベルリンで撮影(2016年 ロイター/Axel Schmidt)
米大統領選でのトランプ氏勝利は世界中の米同盟国に衝撃を与えたが、中でも最大の痛撃を感じているのはドイツだろう。メルケル首相の下、今や「開放(openness)と寛容(tolerance)」の要塞を自認する国だからだ。
トランプ氏が大統領に就くと、メルケル首相が重視している課題のほぼすべてにおいて、米国はドイツの同盟国から敵国に転じる公算が大きい。侵略行為を行うロシアとの対峙、自由貿易の推進、気候変動対策、シリア難民問題といった課題だ。
トランプ氏は選挙期間中、対立候補のヒラリー・クリントン氏を「米国のメルケル」と呼び、数十万人の移民を受け入れたメルケル首相の決断を「正気ではない」と断じた。
つまりトランプ氏の勝利は欧州最強の指導者、メルケル氏個人にも打撃をもたらした。同氏は来年秋の首相選に出馬して4期目を目指すかどうか、間もなく発表する時期にさしかかっている。
側近らによると、トランプ氏勝利と英国民投票での欧州連合(EU)離脱派勝利は、危機に立ち向かい続けるメルケル首相の決意をかえって強めた。
「欧州、欧州域外で難題が待ち構えている以上、彼女はあっさり逃げ去ったりしない。そんなことをすればみっともない限りだ。彼女には責任感がある」と、ある側近は語る。
ドイツと米国の関係は、ジョージ・W・ブッシュ前米大統領の下で米軍がイラクに侵攻して以来冷えていたが、2008年のオバマ大統領の選出で絆を修復した。
オバマ大統領はドイツで、ジョン・F・ケネディ元米大統領の後継者のごとくに歓迎された。ケネディ氏と言えば、ベルリンの壁が建設された2年後の1963年に同地を訪れ、ドイツ語で「私はベルリン市民だ」と語って市民を勇気付けた人物。メルケル首相と緊密な関係を結んできたオバマ氏は今週ベルリンを訪れ、ほろ苦い別れを告げることになる。
南ドイツ新聞は先週、トランプ氏がジャケットをはだけ、胸に描かれた「私はベルリン市民ではない」というメッセージを見せる風刺画を掲載した。