トランプ新政権と水と油の政策方針 メルケル独首相に最大の試練
挑発的メッセージ
しかし、そんなことでメルケル首相はたじろがないだろう。首相は小さな一歩を大切にする冷静な現実主義者であり、ロシアのプーチン大統領、トルコのエルドアン大統領といった剛腕政治家と対話を積み重ねてきた。
それでも、トランプ氏が大統領選で勝利した後にメルケル首相が発表した声明は強烈だった。協力に条件を付ける内容で、民主的に選ばれた指導者に対して同盟国から挑発的なメッセージを送った格好だ。
「ドイツと米国は、民主主義、自由、法の尊重、人間の尊厳といった価値観で結ばれている。これは出自、肌の色、宗教、性別、性的志向、政治観を問わない。米国の次期大統領に対し、これらの価値観に基づいて緊密な協力を申し出る」と首相は述べた。
メルケル首相の大きな外交実績の1つに、EU28カ国をまとめ上げ、ウクライナ東部に侵攻したロシアに制裁を課したことが挙げられる。
トランプ氏が公約通り、プーチン氏と緊密な関係を結ぶなら、米欧、そして欧州の対ロシア前線は崩壊し、首相の対プーチン政策が水泡に帰すだろう。
高い代償
メルケル首相は環大西洋貿易投資パートナーシップ(TTIP)協定の交渉でもEU側の旗振り役を務めてきた。しかし保護主義政策を唱えるトランプ政権になれば、交渉が頓挫するのは目に見えている。自由貿易に強く依存するドイツへの打撃はことのほか大きいだろう。
フィッシャー独元外相は今週発表した文章で、「国家主義の再来によって最も危険にさらされるのはドイツだろう」と警告。ポピュリズムの波がEUの弱体化や崩壊を招くなら、ドイツは「最も高い経済的・政治的代償」を支払うことになると予想した。
このほか、気候変動や財政政策、軍事支出、金融規制といった数多くの課題でもドイツは試練に立たされそうだ。